神代巨神海洋アトランティスI−10
「待った待った!!」
「やだ!帰る!サーヴァントとして絶対に外しちゃいけない台詞を外した俺に、もう明日はぬえーっす!!」
「落ち着いて!行かないでってば!!」
「やだーーーー!!!」
駄々をこねるサーヴァントに、マシュも必死に行かせまいと声をかける。
「落ち着いてください!マスターはこちらにいらっしゃいます!こちらにも!」
「えっ、そっちの二人がマスター?」
「はい。それでどちら様でしょうか!」
サーヴァントは驚いたように立香と唯斗を見てから、ようやくこちらに向き直る。
そして、口吃りながら自己紹介をした。
「あー…えっと…ええっと…俺はマンドリカルド、シャルルマーニュ十二勇士の敵に回った地味なサーヴァントっす。クラスは一応ライダーな、乗り物はないけど…」
「うっ、ごめん知らない…」
「だろうね…いいっすよ」
「唯斗は?」
サーヴァントはマンドリカルドだという。立香はさすがに知らなかったようで、困ったように唯斗に助けを求めた。
唯斗も頭を巡らせて記憶を呼び起こす。
「確か、『恋するオルランド』と『狂えるオルランド』のシリーズに登場する、8世紀のタタール王だったよな。ぶっちゃけ、イメージとまったく違うってのが正直なところだけど…」
ルネサンス期のイタリア、15世紀末から16世紀頭にかけて発行された叙事詩のシリーズに登場する人物だ。オルランドはローランのことであり、フランク王国の最大版図を現出したカール大帝ことシャルルマーニュの部下である。
ルネサンスは過去の文化を再興する試みであり、これらの叙事詩も中世初期の騎士物語であるシャルルマーニュ伝説やアーサー王伝説の影響を受けたものだ。
この中でマンドリカルドはタタール人、東方のトルコ系・モンゴル系の騎馬民族の王として登場し、ローランたちと何度も戦う。その傲慢で苛烈な性格から考えると、目の前にいる根暗な様子はまったく結びつかなかった。
マンドリカルドは唯斗の言葉を聞いて顔を赤くする。
「黒歴史っす…」
「あぁ…死後に自分の過去を見つめ直したタイプか…」
生前のまま生きるサーヴァントもいる一方で、過去の自分を振り返って性格を変える者もいる。マンドリカルドは後者のようだ。それにしても変わりすぎだが。
「シャルルマーニュ十二勇士って、アストルフォやブラダマンデたちだよね。確か、ウマイヤ朝滅亡後、イベリア半島に逃れたイスラーム王朝と戦ったときの物語がシャルルマーニュ伝説なんだっけ」
「そう。後ウマイヤ朝をはじめとするイスラーム王朝と、フランク王国との戦いだな。中世初期の騎士物語ってのは、敵を異民族・異教徒に設定することが多かった。実際、欧州にやってきたモンゴル帝国やイスラーム勢力、バイキングなんかがそうだったし。タタール人ってのも、そうした東方民族の総称で、マンドリカルドの名前も、当時のイタリア人にとって東方民族っぽい名前として描かれたものだ」
「よく知ってるっすね」
マンドリカルドは感心したようにする。自分が相当にマイナーな英霊である自覚はあるようだ。唯斗ですらいろいろ怪しいのだ、立香が知らなくて当然である。
「タルタルソースも、フランスが東方民族っぽいエスニックなソースをイメージして作ったから、タタール人のソースって意味で名付けられたものだ。西欧にとって、東方のアジア系民族は脅威であり、同時に最も身近な未知だった」
「へぇ〜!あ、そうだごめんマンドリカルド、俺はカルデアの藤丸立香。こっちはデミ・サーヴァントのマシュで、こっちはもう一人のマスターの唯斗とそのサーヴァント、アーサー王」
立香は思い出したようにマンドリカルドにこちらの紹介をする。マンドリカルドは「うっす」と軽い挨拶をしてから、ワンテンポ遅れて「アーサー王!?」と驚いた。
「あ、あのアーサー王っすか」
「そのアーサー王かどうかは定かではないけれど、私はアーサー・ペンドラゴンだ。ただ、この世界のアーサー王ではないんだけれどね」
「…?まぁ、訳ありってことっすね。それで、俺はどちらのマスターをマスターと呼んでいいんすかね」
そして、マンドリカルドは至極当然のことを尋ねた。基本的に、現地のはぐれサーヴァントとは立香が契約している。戦闘時の一時召喚を含め、唯斗は少数精鋭というのは基本方針だからだ。
「いつも通り、立香が契約した方がいい。特に俺のライダーは、アキレウスとオジマンディアスだけで手一杯だしな」
「うわ、どんな布陣っすかそれ…」
「そうだね、じゃあよろしくね、マンドリカルド」
「あ、うす、よろしくっす」
こうして、新たな仲間が加わった。これまでと同じ、現地のはぐれサーヴァントとの契約の一つだと思っていたが、それ以上に大きな意味を持つとは、このときはまだ知らなかった。