神代巨神海洋アトランティスI−15


住民の男の言葉に、カルデア側は愕然として二の句を継げなくなる。住民たちは歓喜の色を浮かべて口々に感謝の言葉を捧げた。


「ありがとうございますアルテミス様!」

「欠陥品ゆえオリュンポスから追放された我々に、これほど素晴らしい結末が待っているとは…!!」

「あぁ…やはり、こうなるのですね、この世界の人間は」


アルテミスは嘆息する。なぜ、異聞帯の神である彼女がそんな反応をするのだろう。どこか汎人類史側にも見えるような態度だ。
マシュは動揺して人々を見渡す。


「でも、それは、そんな…」

「…仕方ない、立香、早くボーダーに合流しよう」


唯斗は立香とマシュにそう呼びかける。立香とマシュはそれぞれ迷う素振りを見せた。自分たちのせいで死ぬことになる彼らを、簡単に見捨てることなどできるはずがない。


「立香、マシュ。俺たちは異聞帯を滅ぼす、でも、それはその歴史の文化や価値観を否定するためじゃないはずだ。いや、否定することがゼロだったわけではないけど、これは否定してはいけない類いのものだ。文明や文化は、生と死をどう捉えるか、その哲学から体系化されていくものだから」


生きること、そして死ぬことは、あらゆる文明においてその文化を決定づける最重要の価値観だ。それを否定することは、原則としてあってはならない。中国やインドのように、それが一人によって恣意的に定められることには異論があった。しかし、ここは違う。彼らはそうあるべくして、そう在るのだ。

イアソンも住民たちから目を逸らす。


「おい、アルテミスの言葉が正しいなら猶予はないぞ」

「ま、待ってください、ドレイクさんは…!」


マシュは慌てて、同じく酒場から出てきていたドレイクに視線を向ける。ドレイクは肩を竦めた。


「あーあ、こうなっちまったか。じゃ、仕方ない。ここでお別れだ」

「そんな…!一緒に、私が担ぎますから…!」

「妙にあたしに甘いねぇ、あんた。でも、あたしはせっかくなら酒を飲みながら滅びたいのさ」


第三特異点で、マシュはドレイクに様々なことを教わり、諭された。唯斗同様、人間として成長し始めたばかりだったマシュにとっては、恐らく最も大きく最初の精神的成長をした場所だ。
だからこそドレイクを助けたかったようだが、ポセイドンの呪いは太刀打ちできないだろう。

立香はじっとドレイクを見つめる。


「…決意は、変わらないんだよね」

「ああ、変わらないね」

「…分かった。オリオン!力を貸してくれる?」

「ああ!任せとけ!!」


立香は深呼吸してから、オリオンと仮契約を結ぶ。そして、ドレイクとの別れを決意した。
そこに、ドレイクがごそごそと胸元から何かを取り出す。


「おっと、忘れるところだった。イアソン!」

「っ!これは、」


イアソンに投げて渡したものは、小さく光ってイアソンの手の平に収まる。


「あたしの船の舵輪を封じている鎖の鍵。好きに弄くって、あんたの船に仕立て上げな」

「なっ、だがお前が消えれば船も…」

「テオス・クリロノミアで存在強度を強くすればいい。そうしたらもう、それはゴールデン・ハインド号じゃない。船の名は、アルゴー」

「ッ!」

「船のない船長なんて、締まらないだろう?」


ニヤリとしたドレイクに、イアソンはガシガシと頭をかく。そして、鍵を改めて握り直した。


「そこまで言われて受け取らないほど、俺は高潔な訳じゃないんだ。遠慮なく使い倒させてもらうぞ!」

「そうしな。ああ、あんたたちにも」


ドレイクはさらに、何やら大きめの宝石のようなものを立香に手渡した。見るからに凄まじい魔力を有している。


「海にいたらどでかいのと出くわしてね。いかにも心臓でござーいと光っていたから、ついぶんどっちまったのさ」

「信じられない…それは本物の、神の核…海神ポセイドンの神核!?」


ネモはすぐにその正体に気づいたようで、ドレイクがいつの間にかポセイドンを撃退していたと分かってさらに驚愕する。コアを奪い取って、それを誰かに渡すまでは死ねないと、そうしてドレイクはここまでボロボロの霊基を維持してくれていた。
立香はコアを握りしめて、ドレイクを見上げる。


「…ありがとう、大事にするね」


ニコリとしたドレイクとは、そこでお別れとなる。

一人ドレイクを残して、一同は島を海岸へと走る。通信越しに話を聞いていたボーダーとバーソロミューのサポートもあって、辛くもゴールデン・ハインド号へと到達し、これをイアソンとテオス・クリロノミアの力でアルゴー号に改変、すぐに出港する。

そして、島を出て数十分後、アルテミスの砲撃がヘラクレス島を直撃した。住民たち諸共、島は一瞬で海水ごと蒸発し、爆風が大西洋に鳴り響く。立ち上る水蒸気と、一気に海水が消えたことで島のあった場所へと海水が向かって行く海の流れを見ながら、これがこの世界の姿なのだと、現実を叩き付けられたように感じた。


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