神代巨神海洋アトランティスII−3


『いい機会だ、次の島まで時間があるから、唯斗君のギリシア神話講座でも受けたらどうだい?』

『それはいいアイデアですね!唯斗さんは端的な事実だけでなく、様々な見方や議論を交えてお話ししてくださるので、単なるデータベースだけの知識しかない私よりずっと面白くて勉強になります!』

『待って、メモ用のタブレット取りに行くから!』


ダ・ヴィンチの発案で、そのまま唯斗がギリシア神話の解説をさせられることになってしまった。さすがにギリシア神話は分量が多い、なかなか大変なことを託された気がする。
立香とてかなり勉強しているはずなのだが、わざわざタブレットを用意してまで立香は傾聴姿勢になるらしい。

すると、聞いていたアーサーが小さく笑った。立香を待つというのもあって、何かと見上げると、アーサーは優しく微笑む。


「いや、なんだか第三特異点を思い出してね。ゴールデン・ハインド号に乗って航海しながら、ロストアークや古代ユダヤの話をしていただろう?状況がとても似ている」

「あのドレイク船長と船旅をしたこともある上に、このバーソロミュー・ロバーツとも同じ船に乗るとは、なんとも贅沢な話じゃないか」


バーソロミューはそう言って、どこから持ってきたのかワイングラスを傾ける。もちろん、現代のグラスではなく、近世の金属製のものだ。


「まぁ…それはそうだな」


グランドオーダーに始まるカルデアの旅の、最大の醍醐味かもしれない。

そうして潮風をBGMに、立香が戻ってきたのを通信で確認してから、次の島までの間、ギリシア神話の解説が始まった。


「まず大前提として、ギリシア神話の特徴は、他の神話と同じく世界の在り方を自然哲学的に捉える試みという側面だけでなく、インド・イラン共通時代文明からの影響や、メソポタミア古代文明の古い神格を吸収しながら、時に政治的側面で歪められつつ進展していったってことだ。たとえばゼウスという名は天空の神を意味するものだけど、ゼウス、あるいはデウスは『神の』という意味の言葉としてインドから伝わったものだ。インドではデーヴァという」


古代、インドとイランは一つの広大な文明領域を展開していた。これをインド・イラン共通時代という。ここで生まれた古い神格は、シルクロードを通ってユーラシアの東西の端へと伝わっていく。
そのひとつ、devaはそのまま神を意味する言葉で、たとえばカーマであれば「カーマデーヴァ」というのが正式な名前だ。この言葉はペルシアでダエーワ、ギリシアでゼウス、ローマでデウスと変化する。東に渡ると、漢字では「天」になる。
ちなみに、ゲルマン系のドイツ語や英語ではgodを主に神を示す言葉として使うが、これは「呼ばれる者、祈られる者」を意味するgheuから由来する。英単語callも同種の語源galから来ているものだ。


「だから、英語のoh, my godは、ドイツとか北欧の言葉ではgodにあたる言葉で言い換えられるけど、フランスやスペイン、イタリアはdevaに由来する言葉になる。まぁ、イタリアはそもそもマンマミーア、神じゃなく母親を呼ぶけどな」


たとえばドイツ語では「oh, mein gott」、スウェーデン語では「Herregud」というが、フランス語は「oh, mon dieu」、スペイン語では「oh, Dios mío」と言う。ゲルマン系では英語のgodにあたるもの、ラテン系ではインドのdevaから派生するゼウスと同じ由来の言葉を使うのだ。
devaは英語ではdivineという単語になる言葉で、これは「神性ある」を意味する古い形容表現だ。大文字にして冠詞をつけた「the Divine」で初めて「神」そのものを意味する。


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