神代巨神海洋アトランティスII−9


ようやくデイモス島に到着すると、同じく調査要員のプロフェッサーのほか、オリオンも今回は同行することになる。
イアソンを先頭に上陸し、まっすぐ神殿があるであろう方向に向けて歩き始める。

砂浜から内陸に入っていくと、マシュが辺りを見渡して口を開いた。


「それにしても…ここは、島というより残骸という感じが強いですね」


コルデーもブーツの踵を地面に打ち付けて、金属音がするのを確認する。


「はい、足音もカンカン鳴りますし、歩きにくいです」


言われてみれば確かに、地面はかなり硬質だ。金属の上に土が僅かに堆積しているという状態で、非常に滑りやすくなっている。
あまり長居するには適した場所ではないが、イアソン曰く、メディアたちはこの島にアサシンクラスのサーヴァントを一人残しているらしい。
テオス・クリロノミアの回収とそのアサシンサーヴァントとの合流がこの島での目標となる。

すると、プロフェッサーが「はうあ!」という声を上げてつるりと滑った。尻餅をつき、ずれた眼鏡を何事もなかったかのように直す。
それを見たイアソンは、ネモたちがトリトンも混ざっていることもあってか小馬鹿にしたように笑う。


「ははは!ドジめ!いくら滑りやすくても一角の英雄であるならば…」


そこまで言ったところで、約束されたようにイアソンはすっころんだ。地面に腰を打ち付けてから、平然と立ち上がる。
マンドリカルドは呆れながら声をかけてやる。


「…英雄がなんっすか」

「………英雄とて転ぶ。だが、立ち上がることができる者こそが英雄と呼ばれるのだ…」


そしてドヤ顔でそう述べた。この切り替えの速さはさすがだ。マンドリカルドも感心している。


「すげぇ。それっぽくなってんのマジですげぇ」

「さすが、口八丁手八丁で旅した英雄だな」

「おい唯斗貴様、言葉には気をつけろ」

「私のマスターに何か文句でも?」


それに唯斗が褒め言葉として言ったところ、イアソンは笑いつつ青筋を立てた。しかし、すかさずアーサーが圧をかける。イアソンは口笛を吹いてアーサーから視線をそらした。

するとそこに、魔獣が林の隙間から現れた。マンドリカルドは瞬時に木刀を構える。


「魔獣だ!…ってお前も転ぶんすね!?」


現れたケンタウロスは、足が4本あるのにつるりと滑って転ぶ。ケンタウロスや獣人たちは、手に武器を持ってこちらに迫るが、次々と転倒していく。
なんだこれは、と思いつつ迎撃するべく、立香と唯斗はすぐに指示を出した。


「と、とりあえずチャンス!マシュは牽制しつつすぐ戻って防御、その隙にコルデーが攻撃を繰り返して!マンドリカルドとオリオンは遊撃!イアソンはこっちに接近する個体を迎撃!」

「アーサーは背後に回って挟み撃ちしてくれ」


二人の指示を聞いて、英霊たちはすぐに行動に移す。が、しかし。


「きゃっ!」

「うおっ!」


早速、コルデーとオリオンが足を滑らせた。ジェットで飛んでケンタウロスの斧を弾き飛ばしたマシュも、着地したところで滑って体勢を崩す。マシュは盾を突き立てて転ぶことを避けるも、振りかぶって獣人を殴りつけたところでやはり転んでしまった。
イアソンも再び転んでおり、マンドリカルドは転んだケンタウロスたちをまとめて薙ぎ払い、着地したところで滑っていた。

アーサーはさすがというべきか、背後で特に転ぶことなくケンタウロスたちを倒しているが、転びそうになると、地面に思い切り足をついてとんでもない金属音を響かせていた。あれは地面の金属が割れていそうだ。

これは空中戦に持って行った方がいいかもしれない、と判断した唯斗はアキレウスを召喚しようとした。


「アキレウス!……あれ、」


しかし、呼んでも一時召喚のアキレウスが出てこない。これはまさか、と思い至ったところに、ケンタウロスの一匹が接近してきた。イアソンが迎撃しつつ、両者揃って転ぶ。


「しょうがないか、アーラシュ!」

「おう!」


そこで唯斗はアーチャーに切り替え、アーラシュを呼んだ。召喚されたアーラシュはすぐに接近する個体を矢で迎撃していく。動かない分、転ばなくて済む。

それにしても、と唯斗は現れなかったアキレウスに、かつて特異点でも見られたルールを思い出す。
重複できない、つまり同じ霊基は召喚できないということだ。そうなると、この異聞帯には逆説的にアキレウスが存在することになる。
せめて敵ではないことを祈るばかりだったが、今はとにかく戦闘を終えることが最優先だ。

なんとかすべて倒しきると、肩を上下させながらサーヴァントたちが戻ってくる。アーラシュをカルデアに戻してから、ふわりと飛んできて着地したアーサーをつい見てしまう。


「やっぱ転ばなかったんだな」

「当然だろう」


転ぶところを見たかったかと聞かれれば正直肯定せざるを得ない。だが、イアソンはじとりとマスター二人を見た。


「お前らはいいよな!指示出すだけだから転ばなくて!」

「あはは…まぁ、とりあえず先に進もうか」


立香は苦笑してから、目の前が開けたことで一歩踏み出す。唯斗も進もうとしたその瞬間、立香がつるりと足を滑らせ、さらに唯斗の腕を咄嗟に掴んだため唯斗もつられてバランスを崩した。


「うわっ」

「うおッ!」


二人して揃って地面に尻餅をつく。土があるためそこまで痛くないが、転んだという事実がショックだ。


「ごめん唯斗!」

「…や、別にいい……」

「はははは!ざーまーあー!!」


イアソンは軽快に笑っており、マシュはすかさず立香に手を差し伸べる。


「大丈夫ですか?先輩」

「ありがとう、マシュ」

「い、いえ。これくらい当然のことですので」


マシュと立香は一時的に手を繋いだ状態で、互いに少し顔を赤くしている。一方、唯斗は当然、アーサーに抱き起こされていた。
試合に勝って勝負に負けたような形のイアソンはともかく、アーサーは唯斗に怪我がないことを確かめる。


「痛めてないかい?」

「大丈夫、ありがとう」

「抱きかかえていこうか?」

「はっ倒すぞ」


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