神代巨神海洋アトランティスII−13
「…御意。我が契約者の命であれば、そのように」
カストロが応じると、双子はカイニスを引き連れて離脱する。ひとまず、あの双子と戦わなくて済んだことに安堵した。
カイニスも神霊だが、出自はあくまでラピテース族という半神の部族の子。一方、ディオスクロイはその名の通りゼウスの子だ。神霊としてはカイニスより格上である。
ディオスクロイたちがいなくなったところで、いよいよキリシュタリア一人になる。
「余計なことに時間を取られてしまったね。私は君たちと意見を交わすつもりはない」
「ちょっと待って、その前に一つだけ!」
それに、立香は割って入った。堪らずといった感じだったが、キリシュタリアは「いいだろう」と質問を認める。当の立香は咄嗟に言ったようで、質問そのものは口にできていないようだった。
すると、マシュが口を開く。
「…なぜ、なのですか」
「……」
「なぜこんなことを!?キリシュタリアさんは、人理を守るAチームのリーダーだったはずです!それなのになぜ、こんなことに…!」
「……失望したよ、マシュ・キリエライト。答えは最初に宣言したはずだ」
キリシュタリアは呆れたように冷たくマシュを見下ろす。確かに、南極でカルデアはクリプターの目的を聞いている。キリシュタリアの勝利宣言、異聞帯同士が戦い、勝ち残った歴史が新しい地球のテクスチャになると。
「人類はこれまで一つとして正解を選んだことがなかった。つまるところ、私はそれを、人類には正解を選ぶ器官が存在しないのだと結論づけた。それは異星の神も同じだった。異星の神も正解だけを求める存在だったからね。君もそう思ったことはないかい?雨宮唯斗。Aチームにも引けを取らない魔術回路と知識を持っていた、魔術師ではない君ならば」
キリシュタリアは唯斗に視線を向けた。唯斗やカドックが歴史好きであることは彼も知っていた、のかもしれない。定かではないが、確かに「正解」を選んだとは言えないことが、人類史にはあまりに多かった。それは事実だ。
「さあな。でも、そもそもその『正解』の価値尺度はなんだ?単純な人類のイデオロギー…既存の人類史における理論・哲学・宗教の価値尺度じゃないんだろ。そもそも、異聞帯は間違っていると判断されたために剪定された事象だ。それを新しいテクスチャとすること自体、矛盾がある。ならば、そこでの正解・不正解は、より高次元の思考ってことだ。魔術的には、根源に近しい領域のものだ」
「…ふふ、君が正式にAチームに配属され、クリプターとなっていたのなら…そして、ロシアやブリテンの担当であったならば。その結果を仮定するのは、無意味であっても興味深い、というのは事実だ。根源に近い領域…その考えに至ったのは、もしや先例でも知ったのかな?」
「…っ、」
唯斗は息を飲む。思い浮かんだのは、天草のことだ。第三魔法を大聖杯に叶えさせることで人類の魂を物質化し、次元を高めることで、醜い争いや欲望といったものから解放する。それが天草の唱える「人類救済」だった。
魔法とは根源に近いものである。天草を先例とするならば、キリシュタリアの目的も同じ類いのものかもしれない。確かに、そう考えれば「正解」という特定の判断基準が存在する思想も成り立つ。既存の基準ではなく、普遍的に人類という種を正解に導くとするならば、それは人間という存在の定義そのものを書き直すしかない。
もともとキリシュタリアは、オルガマリーよりもアニムスフィアの当主に相応しいと言われていた、と聞いている。それほどまでの魔術師であれば、根源に近づくなんらかの手がかりを得ていて、それを異星の神の降臨によって実現させる手段をクリプターとして思いついたのかもしれない。