神代巨神海洋アトランティスII−16
「…その返答は道理だが。ドクター、これはただ一度の過ちということでいいのかな」
「『もちろん。キリシュタリア。君は一度、異星の神の手で死の淵から助けられた。なら、彼らも一度くらい死の淵で助けられてもいい。それでようやく対等だと思わないか?』」
「なるほど。確かにその方が公平だ。相変わらず口がうまい。かまわず追い打ちをかけたいところだが、その場合はあなたとの戦いになる。2回目の戦闘。それは避けなければね。いいだろう、表舞台に出てきた君の顔を立てよう」
キリシュタリアは男の言葉に従い、ここで手を引くことにしたらしい。にわかには信じがたいが、カルデアは、命を拾われた。
「戦闘は終わった。カルデアはまたも生き残った。その結果で、見逃していただけるかな?」
「『ああ。僕もトラブルは避けたいからね。お互い省エネでいこうじゃないか。君が立ち去るのなら、僕も立ち去る。今だけの話じゃないぜ、もちろん、この異聞帯からだ』」
「ぬけぬけと。とっくに見切りをつけていたくせに。ああドクター、もう出会うことはないだろうが、忠告を。その人まねは、あまり上手ではないと思うよ」
それを最後に、キリシュタリアは姿を消した。同時に辺りはもとの昼に戻り、青空と青い海が戻ってくる。
爽やかな潮風がボロボロの船上を吹き抜けて、立香はそれに突き動かされるように一歩踏み出した。
「ドクターッ!!!」
「近寄るな。頭が痛くなる」
男は僅かにこちらを振り返る。その目つきは厳しく冷たいものだったが、やはり、ドクター・ロマニのもので間違いない。
「今回はたまたまだ。ここで起きたことは忘れろ。船にいるカルデアの連中にも話すな。あの中には、信用してはならない者がいる」
恐らくカルデアはこの会話が聞こえていないだろう。薄く魔術障壁がアルゴーとボーダーを隔てている。
マシュは「どういう…」と聞き返そうとしたが、男は視線を前に戻して会話を打ち切る。
「そこまで世話は焼けん、自分で考えろ。アルテミス、オデュッセウス、ポセイドン。その三重防壁を越えるのはお前たちの仕事だ。この海を突破して初めて、この異聞帯の王に会う資格が与えられる」
そう言いながら、男は青白い光に包まれる。空間から消えようとしているのだ。
立香は慌てて止めようと声をかける。
「待ってください!!」
「もうこの世界に関心はない。お前たちの戦いにも興味はない。死にたくないのなら…いや、生きていたいのなら、抗え。結果は変わらないだろうがな。どうあれこの星は救えまい」
そう言って、男は完全に姿を消した。もとの海、もとの船が戻った場は、完全にカルデアのメンバーだけになる。
「あ…熱反応、消失…単独で転移されたようです……」
「……」
マシュと立香は視線を落として沈痛な面持ちを浮かべる。サーヴァントたちはなんとか起き上がっており、コルデーは恐る恐る尋ねた。
「あの、今の方はいったい…」
「…、」
それにも答えられない様子の立香に、マンドリカルドが代わりに口を開いた。
「今はとにかく回復と撤退だ。キリシュタリアがいる、ということは、オデュッセウスもこちらを把握している可能性が高い」
「…そうだな、まずはボーダーと通信を再開する」
唯斗も、立香に代わって場を先に進めるべく通信を開く。途端に、ゴルドルフのどでかい声が辺りに響いた。
『何事だね!?!?いきなり君たちのバイタルサインが消えて、し、心臓が止まるかと思った!いや、ちょっと止まった!』
『落ち着いてゴルドルフくん!喋りたいのは君だけじゃないんだから!ああ良かった…!とりあえず無事なんだね!?何があったのかは後でゆっくり話せばいい。まずは撤退だ!急げ!』
ダ・ヴィンチも心の底から安堵した声だった。どうやら通信だけでなく、観測そのものが途絶していたらしい。あの男は、熱源すら関知させたくなかったようだ。それほどまでに存在を知られないようにしている。
『マスター二人とマシュ・キリエライト、騎士王はすぐにボーダーに戻ってバイタルチェックだ!いいね!』
ゴルドルフは4人にボーダーへの帰投を命じる。マスターたちはともかく、マシュとアーサーは回復が必要だ。
アルゴーは損傷が激しいが、マリーンたちが修復しながらなんとか航海を続けられそうであるため、ひとまず唯斗はアーサーのところへ向かう。
「アーサー、大丈夫か」
「…あぁ。戻ろうか」
アーサーは剣に体重を預けていたため、唯斗は肩を貸してやる。「すまない」と言ったアーサーに返すことができず、無言のまま、唯斗は海上に浮上したボーダーに戻った。