神代巨神海洋アトランティスII−17
マシュとアーサーは医務室でネモ・ナースの治療を受け、唯斗と立香は操縦室でダ・ヴィンチたちと先ほどの出来事を部分的に共有する。ほとんど会話が聞こえていなかったとのことなので、とりあえず、あのロマニに似た男のことは割愛して話した。
あの惑星轟については、唯斗が現場で目視した通り、魔術回路を宇宙の惑星配列に接続して巨大な回路に拡張したものであり、それによって星辰を操って隕石を投下した。
元来、占星術とは宇宙から力を得るものであり、星読みの祖であるカルデア人から脈々と受け継がれてきたものだ。しかし、西暦に入って科学が発展するにつれて魔術は矮小化していき、ただ星の動きから未来を予測するものへと陳腐化してしまった。
キリシュタリアがカルデアのマスターだったころにここまでの魔術の片鱗を見せなかったのは、単純に白紙化以前の地球ではあの魔術を行使できなかったからだ。
しかし、白紙化して西暦以降の秩序は喪失し、大西洋異聞帯というギリシア神話の世界が顕現したことで、キリシュタリアはようやく惑星轟を使用できるようになった。
ギリシア神話においては、天とは暗いものであり、清澄なる大気の神アイテルと昼の神ヘメラが空として地上と天を隔てていた。
アイテルはairの語源であり、ヘメラはローマ神話でダイイズとなり、これはdayに変化する。
アイテルもヘメラも、暗黒の神エレブスと夜の神ニュクスの子である。天上の闇があり、それを覆う昼と大気があり、そして地上があり、地下がある。
この4階層それぞれに異なる運用法則が存在しているとした上で、天、つまり宇宙の法則を読み解くものがアニムスフィアの占星術だと、ホームズは解説していた。
そんな規模のものを倒す手段は、今考えるべきではない。なんにせよ三重防壁を突破することが目的であることは変わりないのだ。
一通り情報を共有したところで、唯斗と立香はマスター用の部屋に戻される。
それぞれのベッドに座ると、どっと疲れが押し寄せてくるようだ。
「……唯斗」
消え入るような声で、立香は唯斗に話しかけた。向かいのベッドに座る立香に視線を遣ると、立香は張り詰めた表情をしていた。
「…あの人は、ドクター、なのかな」
「……分からない。でも…違う、と思いたいな」
「うん…」
正直、あの男の正体は仮説すらできない。ロマニは時間神殿において、自分の存在した記録を座の登録ごと抹消することで、ゲーティアから魔術王としての権能を剥ぎ取った。それは確かだ。
沈黙が落ちる。そこに、扉越しにマシュの声が聞こえてきた。
「先輩、よろしいでしょうか」
「うん、いいよ」
立香が応答すると、マシュが入ってくる。マシュも思い詰めた顔をしている。
「すみません、お休みのところ」
「ううん、俺も話したかったから」
マシュは椅子に腰掛けて、膝に手を置いてそれをじっと見つめる。眼鏡越しの瞳は、水分が多いように見えた。
「……先輩と唯斗さんは、あの人のこと、どう、思われますか」
「…ちょうど俺たちも話してた。違うと思う。あの人は、ドクターじゃない、と思うよ」
「そう、ですよね…どんな理由であれ、ドクターは、あんな目をする人ではありませんでしたから……」
震える語尾に呼応するように、マシュの瞳から堪えきれなくなったものがこぼれ落ちる。
「…それでも…きちんと、今まですべてのことへのお礼を…ありがとうを、言えるのかもしれないって…そう、思ってしまうんです…!」
「フォウゥ…」
一緒についてきていたフォウは慰めるように小さく鳴いた。それを撫でつつ、マシュは目元を拭った。
立香も口元をきゅっと一度引き締める。
「…俺も、そう思うよ」
マシュにとって、ロマニは人として成長するために最初に世話になった人物であり、一種の親代わりのような人だった。
立香にとっては、唯斗が無気力な人間だったグランドオーダー初期において、一番つらい時期をロマニに支えてもらっていた。
二人にとって、ロマニはあまりに大きな存在だったのだ。きっとそれは、あの男が自分で思っているよりもずっと、強いものだった。