神代巨神海洋アトランティスII−18


いたたまれなくなって、唯斗はベッドから立ち上がる。


「アーサーの様子見てくる」

「あ、アーサー王なら私のあとに治療を受けて、もうすぐこちらに来られると思います」


マシュは目元を擦ってから、唯斗にそう伝えてくれた。この狭い船内で入れ違いになることはないはずだが、律儀に伝えてくれたのだろう。
すると、立香が逆に立ち上がった。


「マシュ、アルゴー号に行かない?海の風に当たりたい」

「…はい、私も、広い空の下に出たいです」

「だから唯斗はここでアーサーのこと待っててあげて」


立香はそう言って、マシュとともに部屋を出て行った。気を遣われた、という側面もあるだろうし、立香自身、外に出たいという気持ちは本心だろう。

二発目の惑星轟が展開されたとき、アーサーは本気で命を投げ打とうとしていた。その様を見ていた唯斗の心境を、恐らく立香は理解している。それもあって、お互いそれぞれ大事な人と二人きりになろう、という意図なのだろう。

立香とマシュと入れ違いに、アーサーが部屋に入ってくる。唯斗は自分のベッドに腰を下ろして、アーサーも左隣に腰掛けた。


「怪我はどうだ、まだ霊基は万全じゃないっぽいけど」

「そうだね、なんとか戦えるところまで回復してもらえたけれど、万全ではない。リソースの都合もあるけど、この世界のマナならば、外を歩いているだけである程度自然回復できる」


無理をしているのではなく、合理的な範囲での処置のようだったため、唯斗はそれで良しとして頷いた。
再び沈黙が部屋に落ちる。何を言えばいいのか分からない。いや、「自分が何を言いたいのか分からない」という方が正しいか。

すると、アーサーは上体をやや捻ってこちらを向くと、おもむろに唯斗を抱き寄せた。胸元に抱き込まれる形になり、その温もりに包まれる。


「っ、アーサー…」

「すまない、不安にさせてしまったね。命を賭して君を守ると…いや、それでもなお君を守りきることもできないかもしれないと、あのときは本気でそう思ったんだ」

「っ、」


息を飲んだ唯斗は、動揺の理由をようやく正確に把握した。
アーサーを本当に失うかもしれない、という恐怖を、あのとき初めて感じたのだ。

近しいことは何度かあった。SE.RA.PHでキアラに追い詰められたとき、セイレムでアビーがアーサーを元の世界に強制送還しようとしたとき。同じように、アーサーを失う恐怖に近いものを感じていた。
だが今回は、本当に駄目だと思った。もう勝てない、ここで終わりなのだと。

アーサーが先に唯斗を守って死に、唯斗も後を追うように殺されるのだと、そう思ったし、あの謎の男が現れなければ、事実そうなっていた。

その動揺によって、心がずっとざわざわとしている。


「…アー、サー…アーサー、」

「うん」


目元に滲んだものを隠すように、唯斗はアーサーの鎖骨あたりに顔を埋めて背中に手を回す。アーサーもしっかりと唯斗を抱き締めてくれていて、今ここにアーサーがいるという事実が、いったいどれほどの奇跡か、改めて実感するようだった。


「アーサー…どこにも、行かないでくれ…」

「…ああ、」

「…もう、一人になるのは、いやだ……!」

「っ、唯斗、」


アーサーも声を詰まらせて、唯斗の後頭部に手を回した。声を震わせる唯斗を、どこにも行かせまいとするかのように、この世界で一番安心する腕の中に閉じ込めてくれていた。


「僕も、君を近くで守りたい。君の隣で戦いたい。ずっと君の傍にいたい」


その言葉に頷くことしかできなかったが、その代わりに、強く唯斗もアーサーを抱き締めた。余すことなく感情を伝えられるように、互いの温もりにすべてを託す。

この絶海に聳える3つの関門の1つすら攻略していないにも関わらず、2度も全滅を予期し、辛くも逃げおおせた。敗北ばかりを重ねる状況はあまりに途方もなく、そして絶望的だった。


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