神代巨神海洋アトランティスIII−4


早々にテティス島を後にして、二日かけてペルセイス島へと航海が再開される。

アルゴーの船上には、イアソンの他に唯斗とアーサー、アキレウスが待機しており、ロイヤル・フォーチュンの方には立香たちがいる。
相変わらず青空が広がるアトランティスの海を眺めていると、アキレウスが隣にやってきた。


「?どうした、アキレウス」

「いや、ちょっとな」


アキレウスはそう言うと、再びじっと唯斗を見つめる。アーサーと二人、どうしたのかと首をかしげると、アキレウスはニヤリとした。


「…やっぱ見た目じゃねぇか!」

「え、なにが」

「そっちの俺がお前さんにえげつない感情向けてる理由」

「……は!?」


思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。アキレウスはケラケラと笑っている。ぼかした表現をしているが、要はカルデアのアキレウスがあまりに強い感情を唯斗に対して向けている理由が、外見ではなかったと言っているのだ。


「記憶…じゃないな、記録か」

「おう。一度退去してるだろ、だから座に記録はあるんだよ。お前さんと契約したことで、その記録を照会できるようになったってとこだ」


グランドオーダーを終えて、査問会を控えた年末に、英霊たちは一斉に退去した。その際、座にカルデアの旅路が記録されたらしい。


「あくまで記録は記録だ。そこに感情は伴わねぇし、俺とそっちの俺は別だ。とはいえ同じ思考回路なのも確かだからな、いったいどういう理屈かと考えたんだが…まぁ、当然見た目じゃなかったな。もちろん、及第点だが」

「…聞いていればさすがに失礼だろう、アキレウス殿」


見かねてアーサーが口を挟む。じとりとしたその視線を受けても、アキレウスは楽しげにするだけだ。


「俺だけじゃなく騎士王まで落としてるんだもんなぁ。やるな、お前さん」

「…まぁ、話題振ってきたのそっちだから参考までに聞くけど。その記録見てどう思った?」


そこで、唯斗も意趣返しではないがアキレウスに聞いてみることにした。同じ思考回路だと言いながら、記録を見た上で直接確認しにきたのだ、何かしら思うところはあったはず。
アキレウスは楽しげな笑みを深めた。


「俺が好きそうなヤツだなって思った。なんつか、筋の通ったまっすぐさっつーかよ、誠意とか、信頼とか、何より、俺たち英雄が託した後世の人間として、これほど理想的な言動で返してくれるヤツもそういないだろ」

「……、そっか」


しかし、自分で聞いておきながら、衒いなく答えたアキレウスの言葉に気恥ずかしくなってしまい、完全に自爆する。唯斗は視線をそらして頬を掻いて誤魔化すが、アキレウスは耐えきれずに噴き出した。


「あっはっは!かわいいヤツだな、マスターは」

「マスター…」


アーサーはため息をつきつつ、そっと唯斗を抱き寄せる。何かと思っていると、アキレウスは唯斗の頭を撫でつける。


「こりゃ、彼氏は大変だな。さぞ敵が多かろう」

「筆頭は君だけれどね」

「食えるなら食うからな、俺は。主従ってのは嫌いだが、記録でも、こうやって話していても、お前さんなら従っていいと思える。遠慮なくこき使うといい、マスターたちが生き残れるように、死ぬまで戦ってから死んでやるさ」


アキレウスの言葉は、この異聞帯で散ることを予期しているようなものだった。踵を抉って見せた強者がいる、その事実もあってのことだろう。
唯斗はその太い腕越しにアキレウスを見上げる。


「…確かに、一緒に戦って、関係を築いてきたアキレウスは別の存在だ。でも、ここで出会ったアキレウスも、大切な人だ。見た目やクラスが同じだからじゃない、俺や、俺の時代の人々がこの先も生きて行ける未来を拓こうとしてくれるからだ」

「……それは嬉しいが、そう思うことはお前にとって苦しいことかもしれねぇぞ」

「そんなの百も承知だ。でもそれは、あんたに向き合わない理由にはならない。近いうちにやってくる苦しさを理解して、俺はアキレウスに心と一緒に信頼を預ける。その瞬間を、覚悟してる」


金色の瞳を見据える唯斗に、アキレウスは驚いたようにしてから、ふっと破顔した。そして、乱雑な撫で方をしていた手を、唯斗の頬に滑らせた。


「…その心、信頼、覚悟、受け取った。任せとけ、必ずお前さんたちを、オリュンポスに辿り着かせよう」

「…頼んだ」


唯斗の言葉に頷いてから、アキレウスはまるで空気を明るくするかのように、またニヤリと笑って言葉を続ける。


「ところで、誓いのキスでもしとくか?」

「結構だよ」

「騎士王には聞いてねえがな」

「聞くまでもないだろう?」

「男の嫉妬は見苦しいぜ」

「間男よりはマシだろう」


まるでカルデアのアキレウスのような軽口でアーサーと言い合い始めたのを見て、唯斗はため息をつきつつ、この男らしい距離の取り方に、久しぶりにこの異聞帯で安堵を覚えた。


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