神代巨神海洋アトランティスIII−5


ペルセイス島への道中、夜の航海中にボーダーから通信が入った。敵影を知らせるものだ。異聞帯の西側に入っているためか、徐々にエキドナから放出された怪物たちの数が増えている。
唯斗とアーサー、アキレウスもボーダーの甲板に向かい、立香とマシュ、マンドリカルドもハッチから甲板に出てきた。


「ラミアか…アーサーは海面浮遊礼装持ってボーダーに接近する個体と戦ってくれ。アキレウスは離れた個体をまとめて迎撃」

「マンドリカルドとマシュも船体の近くでお願い!」


唯斗と立香の指示でサーヴァントたちが動き出す。アキレウスは一気に跳躍して、ボーダーから離れた位置で海面に浮上したラミアたちを戦車でまとめて薙ぎ払っていく。
アーサーとマシュ、マンドリカルドはボーダーに近づくラミアを一体ずつ倒していった。

特に問題はない戦闘だ。いつも通り、雑魚の掃討である。

5分ほどで殲滅は完了し、サーヴァントたちは甲板に戻ってきた。アーサーとアキレウス、マシュは特に怪我などはない。
一方、マンドリカルドはラミアの鉤爪が掠ったようで、少しだけ腕に負傷していた。もちろん、それくらいならよくあることで、特に近接戦闘をするサーヴァントたちは当たり前に負うものだ。

しかし、立香はマンドリカルドの負傷を見て、極地礼装に備え付けられた回復術式を起動した。
礼装の術式はコスパが悪く、魔術師ではない立香には特に負担が大きいものだ。にも関わらず、自然治癒が可能なマンドリカルドの怪我を今ここで治した。

マンドリカルドも少し怪訝にする。


「あ、あざっす」

「よし、じゃあ戻ろうか」


立香は笑って頷いたが、ハッチに戻ろうとしてふらりとした。倒れそうになり、慌ててマシュが支える。


「先輩!?大丈夫ですか!?」

「…、ごめん、大丈夫…」

「礼装の術式の連続起動は体に負担がかかります、無理はしないでください」


心配そうにするマシュにすまなさそうに立香は頷いて返す。
先にハッチからボーダーに戻った二人に、マンドリカルドはさらに訝しげにして、唯斗に話しかけてきた。


「唯斗、」

「ん?」

「…マスターのああいう行動、よくあることなんすか。マスターはわりと、無理しなくていいときは無理しない、っていう加減をするタイプに見えたんすけど」

「あぁ…そうだな」


まだまだ立香のようには人間性が発達していない唯斗だが、さすがにこれくらいは理解できるようになっている。いや、同じような立場だから共感できるという方が正しいか。

あれはどう見ても空回りしている。無理もない、ロマニのことで動揺しているのは立香とマシュだ。唯斗よりもずっとロマニに助けられていた二人だからこそ、キリシュタリアとの戦闘でのことは堪えているはずだ。

それに、これほど敗北を積み重ねている状況も初めてだ。追い込まれているのは第六特異点やロシア異聞帯などでも同じだったが、ここまで明確に叩き潰され、何度も命の危機に瀕しているのはグランドオーダー時代から考えても初めてのことだ。

絶望的な状況への焦りや不安、恐怖、そこにロマニらしき人物との邂逅。立香はもういっぱいいっぱいなのだろう。


「…マンドリカルドの推測通りだ。普段よりちょっと空回ってるかもな。まぁ、危機回避能力はずば抜けてるから、本当にまずい無理はしないと思うけど……」

「…そうっすか。ちょっと、話してきます」


マンドリカルドも恐らく気づいている。だからこうやって確認してきたのだ。
そして、マンドリカルドは立香に寄り添うことにしたらしい。陰キャを自称するわりに、こういうところで積極的になるあたり、この男も騎士なのだと感じる。


「ありがとう、頼んだ」

「いやほんと、唯斗を差し置いてってのはありますけど」

「俺にできることとマンドリカルドにできることは違う。今、立香の傍にいた方がいいのは、多分マンドリカルドだ。アトランティスに残っててくれて良かった」

「…うっす、」


照れたようにしてから、マンドリカルドはハッチからボーダー内部に戻っていった。唯斗たちは元の配置に戻るためアルゴーに向かうことになる。
すると、それを見ていたアキレウスは微笑む。


「お前さんたちの旅は長いと聞く。信頼しあっているんだな、マスター二人は」

「…そう、だな。同じように、こういう海の特異点を旅していたころは立香と喧嘩することもあったけど、それも大事なことだったって、今はよく分かる。そういうのが分かるようになれたことは、純粋に旅をしていて良かったって思える」

「人生だな。そんで、やっぱお前さんは良いマスターだ」


脈絡がないようで、アキレウスがマスターというものに対して人間的な部分を重視しているのを知っている唯斗には、その意図も理解できる。とはいえ、どうリアクションすればいいのか分からないことに変わりなく、「それはどうも」と目を逸らして言えば、アキレウスはまた笑って唯斗の頭をがさつに撫でた。


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