神代巨神海洋アトランティスIII−6


翌日、引き続き唯斗たちはアルゴーに、立香たちは今度はロイヤル・フォーチュンに乗船して、海上を警戒しながら航海を続けた。
通信は開かれた状態を維持しており、立香たちがロイヤル・フォーチュンでバーソロミューと雑談に興じているのが聞こえていた。

時折、立香は唯斗にも話を振って、唯斗が返す場面もあった。

立香はすっかりいつも通りで、昨日の様子は見受けられない。マンドリカルドと話して落ち着いたようだ。意識的にマンドリカルドも立香やマシュと話すようにしているように思える。


『ふむ。不躾で恐縮だが、君たちは何がしたい?もちろん、異聞帯ではマスターのために戦うというものになるが、もし他に何かがあれば嘯くのも一興だと思ってね』


そこに、バーソロミューが話題を変えてそんなことを尋ねた。こういう旅は生前縁がなかったというコルデーに対して、サーヴァントとして第二の生を過ごす今、やりたいことはあるか、という質問だ。


『こういうのは身勝手なほど面白い。例えば私なら、理想のメカクレとの運命の出会いを果たす、などだ』

『お、おう…なんつーか、ぶれねぇっすね…』


相変わらずのバーソロミューに、マンドリカルドは引きつつも自分のことを考える。


『俺は…そうだな…気楽にできる友達が欲しいっつー願いはなんか叶っちまったしな…』

『友達ですか?オリオンさんやアキレウスさんと打ち解けられたんですか?』

『いえ全然。仕事上の付き合いです』


マシュはオリオンなど他のサーヴァントのことかと聞くが、マンドリカルドはきっぱりと否定した。唯斗はアルゴーの船首にいるアキレウスをちらりと見遣るが、アキレウスは通信を聞いていないようだ。

それなら、マンドリカルドが言う友達とは立香のことだろう。思えば、立香には仲間はいても友達はカルデアにいない。唯斗はきっと、友達というより運命共同体というか、そういう仲間であり、友達、というような感覚では互いにない。
あのマンドリカルドが友達だと自覚しているほどだ、昨晩のうちに相当二人でいろいろなことを話して、共感し合ったのだろう。


『…そうだな。願いはあまり変わらなかったわ。立派な騎士になりたい、だ』

『おや。君はシャルルマーニュ伝説で悪役を演じたとはいえ、冒険を繰り広げた立派な冒険者であり、騎士では?』

『ま、まぁそこまで卑下するほどのものでもなかったかもだが…いや、やっぱり立派な騎士になりたい、で』

『ふむ。メカクレ深度Eの君がそう言うのであれば、私としても特に何か言葉を紡ぐ必要はなさそうだ』

『へいへい…メカクレ深度ってなんだ……』


マンドリカルドは呆れたように言ったが、もうバーソロミューのこれは持病だ。仕方ない領域だろう。
一方、バーソロミューはコルデーにも尋ねる。


『コルデー嬢はどうかな?自由になれるとしたら何がしたい?』

『うーん………いえ、私はやっぱり、自由になってはいけない、と思います』

『おや、それはまたユニークな思考だね。どうしてそう思うのかな?』


バーソロミューは動じずに聞いているが、「自由になってはいけない」という言葉に、唯斗も通信向こうの者たちも首をかしげている。それこそ、フランスは自由・平等・博愛の国だ。


『だってそうでしょう?私は、自由になった結果サーヴァントになってしまった。私には何も功績がありません。一人で考えて、計画して、故国を救おうとして、その実、何も為し得なかった。私は虚無の暗殺者、シャルロット・コルデー。ですから、自由はありません。生きている意味が、ないのですから』


大海原を吹き抜ける潮風が一瞬の沈黙を拾う。なんと返したものか、と思っているのをよそに、通信にネモが割り込んだ。


『海をゆらゆらとしていたら奇妙な言葉を拾ったので割り込むよ。それを言うなら、みんな意味なんてない。僕は混ざりものだし、バーソロミューに至っては悪いことをしただけだ』

『はは、ぐうの音も出ない。だがその通りだ。海賊という概念なら黒髭というバカがたった一人で打ち立てた。面白いエピソードなら他の連中に山ほどある。ほら、私は無価値で無意味な存在になった!』

『そ、そんなことはありません!』

『いや、同じことなのだよ。究極的にはね。私は人類史には何の貢献もしていない。そうだろう、唯斗。他ならぬフランスの英霊だ、言いたいことの一つや二つあるのでは?』


そこに、バーソロミューが唯斗に振ってきた。こういう気遣いのスマートさはさすがというべきか。
唯斗は一瞬考えてから口を開く。


「…俺の契約しているアサシンクラスのサーヴァントは1騎だけ。その真名を、シャルル=アンリ・サンソンという。あなたの首を刎ねた処刑人だ」

『っ、』


コルデーの息を飲む声が聞こえる。サンソンが処刑した大勢の人々の一人がコルデーであり、コルデーの弁護人は数ヶ月後にマリー・アントワネットの弁護も行うことになる。


258/359
prev next
back
表紙へ戻る