神代巨神海洋アトランティスIII−8


フランス革命で成立した「人権宣言」において、人権を持つのは男性のみとされ、女性は男性に服従することが引き続き求められていた。
それに異を唱えたのがオランプ・ド・グージュであり、フェミニズムにおいて極めて重要な人物でもある。グージュは「女性および女性市民の人権宣言」を1791年に発行している。

そしてこのグージュもまた、革命裁判所でこうした言動がロベスピエールなどの男尊女卑主義者の反感を買い死刑を宣告され、1793年に同じくサンソンによって処刑されている。
コルデーは7月に、マリーは10月に、グージュは11月に処刑されており、サンソンが処刑した2700人あまりの人々に含まれる。


『グージュさんは私も知っています、けれど、あんな大胆な主張は私にはとても…それに、私は当時、別に女性を代表して男性を殺害したわけでもありません。女性解放の象徴になるには、私の行いはあまりに野蛮です』

「そうかもな。実際、グージュが処刑されたのはコルデーのように女性が暗殺に及ぶことを国民公会政府が恐れたからだという指摘もあるし、当時のフェミニストからもミソジニーを助長すると批判があった。でも、一番重要なのは、そういう気づきや議論を起こしたことだ。結果的に、コルデーのアイコニックな働きによって19世紀フェミニズムが勢いづいていったのは確かだし、女性への人権の承認に至るプロセスに影響した」


サンソンもそうだが、結果そのものというよりも、その結果によって何が起きたのか、ということの方が重要なのだ。


「サンソンが革命の惨禍という結果をもたらし、それが後世の欧州から死刑制度を廃止させる人権理論に繋がった。コルデーが女性による抑圧的な政治家の暗殺という結果をもたらし、それがイデオロギーより社会秩序を優先する意味と女性の力への気づきに始まる社会学の新たなステップに繋がった。だから、未来のフランスはあなたたちを記憶した。行為そのものに意味があったか、ってよりも、後から意味がついてきたんだよ」

『唯斗の言うとおりだよ。生きてることに意味があるんじゃないんだと思う。それは苦しいことかもしれないけど…でも、こうやってサーヴァントとマスターとして出会えたことは、劇的なことなんじゃないかな』


立香も唯斗の言葉に応じて言葉を引き継ぐ。出会いと別れの連続だったこのカルデアの旅を経て、立香と唯斗が至った結論であり、立ち上がれる理由でもあった。


『…たくさんの出会いと別れを繰り返して、決して幸せなことばかりではなかったでしょうに…あなたたちはそうやって笑えるのですね…』


コルデーは、第二の生であるサーヴァントとしてこうやって出会えたことは劇的なことだと言った立香に、その言葉の裏にあったものを理解して少し言葉を詰まらせる。そして僅かな沈黙のあと、再び言葉を発した。


『あの、あのですね。最初に出会ったときのこと、覚えていらっしゃいますか?』

『ヘスティア島で助けてくれたこと?もちろん覚えてるよ』

『あなたにとっては、助けてもらったという事実だけかもしれません。でも私にとってはそれ以上に、私があなたを助けた、という事実が重要でした。一度も役に立ったことがなかった私が、初めて世界の、あなたの役に立てた。こんな素晴らしいことがあっていいのかと思ったんです』


コルデーにとっては、こうやってサーヴァントとして立香のために戦うことが、初めて誰かの役に立っているという実感を得られる出来事だったのだろう。歴史が彼女を肯定していても、それは彼女自身の実感ではない。
流された立香が出会い助けられた相手がコルデーだったことは、ある意味では運命的なことだったのかもしれない。


『ありがとうございます、マスター。私、あなたのことが好きになりました!』

『…えっ!?』

『なっ!!!』


すると、コルデーは衒いなくそんなことを言った。立香、マシュの驚愕する声が割れて聞こえてくる。
コルデーも後から言葉の意味に気づいたようで、慌てて訂正する。


『あっ、ごめんなさい!そういう意味ではなく…その…立派なマスターだなと…』

『あぁ、そういうことでしたか。はい、私自慢のマスターです!』

『おっと、痴話喧嘩ならアルゴーでやりたまえ。我らロイヤル・フォーチュンはそういうのを禁じているのだ』

「アルゴーでも禁止だぞ」


呆れたようなバーソロミューに対して、イアソンは甲板で唯斗の通信に向かってため息交じりに返す。


「というか、ギリシャで恋愛ごとは死亡フラグと同義だと思え!」

「その通りだぞー」

『本当にな…』

『ノーコメントで!』


船首に立つアキレウス、ボーダーのオリオンとパリスからもそんな声が返されてひとしきり笑いが起こる。
コルデーは、サンソンがそうであるように、自らが英霊であることに疑問を思い続けるだろう。それも彼らの在り方だ、唯斗はそれを否定するつもりはない。

ただ、少しでも悔いのない時間を過ごして欲しいとは思う。

船は前方にいよいよペルセイス島を視界に入れていた。


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