神代巨神海洋アトランティスIII−12


コルデーは一瞬意識を遠のかせたあと、急に体から魔力を放ち始めた。
どうやらゼウス・クリロノミアが暴走を始めているらしい。


『ゼウス・クリロノミア暴走を開始。霊基崩壊開始』

「近づか、ないで、ください…!」


コルデーは息も絶え絶えになりながら立香に言った。明確な殺意、こちらに向けての敵意だが、それはクリロノミアから発せられている。意識すら、このナノマシンは支配することができるようだ。
それによって霊基は崩壊し始めており、ケルベロスに代わって今度はコルデーが暴走状態にあった。


『えーっと、カルデアのマスター君?彼女にトドメを刺しなさい。苦しませるだけだよ?』


通信から、アポロンが立香に告げる。アポロンはより正確にコルデーの状態を理解しているのだろう。
確かに、霊基が生きたまま崩壊していくなど、ひどく苦しく痛みを伴うもののはずだ。何より、このままではコルデーと戦うことになってしまう。

すると、マンドリカルドが木刀を持って立香を制して、コルデーの前に立つ。


「下がってろ立香。俺がやる、指示は出さなくていい」

「っ、マンドリカルド…!」


マンドリカルドは立香に傷を負わせないよう、そしてコルデーを早く解放するよう、自ら彼女を仕留めることにしたようだ。コルデーもそれを望んでいる。


「お願い、っ、します…!もう、意識を……保てな…い…!」

「なんにせよ止めるぞ、話はそれからだ!」


イアソンも剣を抜いている。すでにコルデーは臨戦態勢になっていた。宝具が人間である立香や唯斗に発動すれば、神代の英霊であっても守るのは難しくなってしまう。


「…くそ、立香にコルデーを殺させるわけにはいかない、アーサー、アキレウス…やろう」


唯斗はアーサーとアキレウスに指示を出そうとしたが、アキレウスは「バカ」と唯斗の頭をこつんと軽く叩いた。この男にそう言われることは極めて珍しく、思わずポカンと見上げてしまう。


「お前さんに殺させるわけにもいかねぇんだ、こちとら。同じフランスのサーヴァントとして、マスターにとっても大事なヤツだろう。この島に来る途中にそう言っていたはずだ」

「っ、聞いてたのか」

「他ならぬお前さんの話だからな、会話には加わらなかったが、ちゃんと聞いていたさ。だからこそ、俺にとってはマスターもまた、あいつへの手向けをすべきヤツじゃねぇんだ」

「アキレウス殿の言う通りだよマスター。君は責任を負う意志を示した。それで十分だろう」


アーサーも同意して、二人は唯斗の指示を聞く前にマンドリカルドと並んだ。そして、三人がかりでコルデーと戦闘を開始する。
クリロノミアで強化されたコルデーは、目にも留まらぬ速さでアーサーの剣を避けると、マンドリカルドの脇腹にナイフを突き刺す。直前にマンドリカルドは盾で防いだが、その衝撃だけで弾き飛ばされた。

アキレウスの槍を素早く避けたコルデーは、着地と同時にアーサーの首元をナイフで掠め、アキレウスのオレンジの布を引っ張って体を引き寄せるとナイフを突き刺そうとした。

ギリギリのところで、戻ってきたマンドリカルドがそのナイフを木刀で弾き、コルデーは距離を取って着地する。
同時に、呻きながら血を吐き出した。

立香は唇を噛みしめる。


「っ、ひどい…!」


わざとクリロノミアを暴走させたのは、恐らくコルデーにこれを投与した人物だろう。ここではオデュッセウスだと考えられる。

やはり、ここで殺してやることがせめてもの情けなのだろう。唯斗は口を開こうとしたが、その前に、オリオンが立香に呼びかけた。


「マスター!」

「オリオン…?」

「今ここでこいつの霊核を砕いて楽にしてやるのは簡単だ。だがそれでいいのか!?」

「良くない!!」

「よし!ならコルデー!もう少し我慢できるか?」

「そ、んな…っ、!」


苦しそうなコルデーにさらに酷なことを言ったオリオンに、マンドリカルドは訝しげにする。


「待て、ならどうするってんです?」

「ゼウス・クリロノミアを強制停止させる。ヘファイストス!あんたのクリロノミアで、ゼウス・クリロノミアを強制停止させることは可能か!?」

『可能。ただし凍結のみ。排出にはアテナ・クリロノミアが必要』


なんと、オリオンはヘファイストス・クリロノミアを使ってコルデーのクリロノミアを凍結させることを提案した。
息を飲んだカルデアに、通信からアポロンが呆れたように口を挟む。


『待て待て。そのクリロノミアはボーダーの補強に使うという話だったはずだろ?』

『その通りだ。気持ちは分かるが、それでは彼女が浮かばれない』


ゴルドルフも冷静に反論する。確かにその通りだ。ヘファイストス・クリロノミアでボーダーを補強しなければ、この海を突破することはどのみちできない。
だが、ゼウス・クリロノミアの停止にアテナ・クリロノミアが必要であることと、ヘファイストス・クリロノミアがその段階でも必要であるということは別だ。
唯斗は急いでヘファイストスに尋ねる。


「…ヘファイストス、ひょっとして、ヘファイストス・クリロノミアでコルデーの霊基を凍結して、アテナ・クリロノミアを投与したあと、ヘファイストス・クリロノミアを再抽出可能なのか?」

『肯定』


その方法ならば、コルデーを助けて、なおかつボーダーを補強することも可能だ。もちろん、非常に時間を要することになるし、アストライアが言っていたアテナ・クリロノミアの場所はまだ分かっていない。計画にはなかったアテナ・クリロノミアの回収を今からやるとなると、かなり遠回りになる。

アポロンもその時間の無駄を指摘する。


『率直に言って。役に立たない駒に、そんなことをする余裕が我々にあると思うかい?』

「ヘファイストス、アテナ・クリロノミアの場所は?」

『座標送信』

『おや、エリス島か。ネメシス島の手前になる、寄り道しても決戦には間に合うだろう』


唯斗が尋ねたアテナ・クリロノミアの場所をヘファイストスに送られたホームズは、その座標から素早く工程を算出し、計画上、問題なく実行できることを確認する。

それでも無駄なステップだと言えばそれまでだし、事実だ。ここでコルデーを終わらせることも、合理的なのだろう。


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