神代巨神海洋アトランティスIII−13


イアソンは一通り情報が揃ったのを確認して、立香をまっすぐに見据える。


「さあマスター!選択の時だ!」

「イアソンあんた…!」


そして、選択を迫ったイアソンに、マンドリカルドはキレそうになる。それをイアソンは手で制した。


「分かってるぞマンドリカルド!だがな!生者のみが死者の行く末を定める権利がある!さあ、どうする?」


死者が生まれ変わるのか、天国か地獄に行くのか、神の元に召されるのか、理想郷に旅立つのか、いつだってそれは、生きている人間が定義してきた。それこそが、世界各地の文明の始まりだった。
サーヴァントの結末を決めるのもまた、マスターなのだ。キャプテンとしてひとつの神話を織り成したイアソンだからこそ、リーダーたる立香に、その覚悟と決断を求めた。

立香は一瞬沈黙してから、全員を見渡して答える。


「…コルデーにクリロノミアを使う!」


グランドオーダー中なら間髪を入れずに答えていただろう。一瞬とは言え逡巡したのは、レムナントオーダーや異聞帯攻略において、多くの犠牲を見てきたからだ。どうしようもなく、どうにもならないことを知っているからだ。
それでも決断した立香に、マンドリカルドは息を飲んでから優しく微笑んだ。


「…了解っす、マスター」

「はい、マスター!」


マシュも笑顔で頷いて話はまとまるが、コルデーは苦しそうに拒否する。


「やめ、て…そんな…役に立たないより…足を引っ張ることの方が…つらいのに…!」

「あんた一人を助けられないで何が英雄だって話だ。気にするな、あんたが俺たちを助けてくれりゃあいい」


アキレウスも余裕そうに笑うが、コルデーは首を横に振る。


「助けられません!助けられるはずがない!」

「じゃあいいや。俺たちが、助ける方が気持ちいいから助けるぜ」

『不条理な生き物たちだよね、君ら』

『くっそー!アキレウスと気が合うなんてー!』

『って思ったけどパリスちゃんがいいならそれでいいかー!』


不条理代表のような神は置いておいて、ダ・ヴィンチは通信から落ち着いた声で現場の結論に対して意見を述べる。


『私に口を出す権利はなさそうだ。立香君と唯斗君が後悔しないなら、それでいい』


前のカルデアのダ・ヴィンチもまた、基本的に立香の判断を尊重していた。その姿勢は今のダ・ヴィンチも変わらないらしい。
立香は唯斗を見遣る。


「唯斗は?これでいいかな」

「いいも何も、今までずっとそうだっただろ。意味があるから助けたことなんて一度もない。後から意味がついてきたんだ」

「…うん、ありがとう、唯斗」


立香自身も不安だろう。この決断が正しかったのか、特に負け続きのこの絶望的な海においては、こんなことをする余裕などあるはずもない。それでも、唯斗はいつだって変わらない、グランドオーダーからずっと同じ、カルデアの旅路の本質を改めて言葉にした。
それを聞いて、立香は勇気が出たのだろう、ようやく笑顔で頷いた。

いまだに首を横に振るコルデーに、イアソンは腕を組んで偉そうに告げる。


「確かに足を引っ張るのは死ぬほどつらい。酒に溺れたくなるし、死にたくなる。だがそんな楽な方向に流されるなど、神が許しても俺は許さんぞ!帆を張って抜錨し、笑いながら怒りながら海を踏破する!それがアルゴノーツ!それが、アルゴーの仲間の義務だ!」

『キャプテン・イアソンに同意する。キャプテン・ネモは、目の前に助けられる人がいるなら必ず助ける。それが信条だ』


コルデーを仲間だと明朗に告げたイアソンに、ネモも同意する。二人のキャプテンの結論に、ゴルドルフも折れた。


『お前たちは…ええい!分かった、分かったよ!藤丸!コルデーを助けてやれ!』

「ありがとうございます!所長!」


ゴルドルフも、これがカルデアだと十分に理解している。
こうしてヘファイストス・クリロノミアがコルデーに投与されたことで、ゼウス・クリロノミアと拮抗して増殖は止まり、霊基は凍結。コルデーは意識を失った。


「大丈夫、呼吸は安定しているでござる」


千代女が容態を確認し、なんとかなったことで、ひとまず息をつく。

そこに、ちょうど良いタイミングで神造兵装の生成が完了した。


『対狙撃型星間戦闘機専用複合長弓、完成。命名「アイギス・エクリプス」』


アイギスは、ヘファイストスが作ったゼウスの盾だ。エクリプスとは日食や月食を意味する。米軍艦隊の護衛艦イージス艦はアイギスの英語読みである。
つまり、この弓で月を欠けさせるという意思表示だ。


『行け、汎人類史。世界を是正せよ』


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