神代巨神海洋アトランティスIII−15
「気にするな、立香。今、祈ってるだろ。今、願ってるだろ。迷ったことも、何も言えなかったことも、あの瞬間じゃ、当然っす。それを卑怯だとか、そんな風に…決めちゃあ駄目だ。マシュもそう思うだろ?」
「…はい」
恐らく、コルデーを助けると決めたのは間違っていたかもしれないということを、アテナ・クリロノミアを使うべきではなかったかもしれないということを、そしてそう思ってしまっていること自体を、立香は許せないと思っている。それを理解したからこそ、マンドリカルドは声をかけたのだ。
「……でも、俺は」
「四の五の言うなってことだ。マイフレンド」
顔を上げた立香に、マンドリカルドはその肩を組んで笑顔を見せる。
「それで責められる謂われなんてねぇ。責められたら俺が反論してやるっす」
「わ、私もです!マスターの選択は、決して間違っていないと!そう主張すると宣言します!」
何度も思ってきたことだったが、やはり、マンドリカルドがこの異聞帯に残ったことには大きな意味があった。圧倒的な戦力差で、迷いや葛藤に心を疲弊させた立香に、その弱さを、コンプレックスを、過去を共有し友人となったマンドリカルドこそが、最も必要な存在だったのかもしれない。
とはいえ唯斗も、マシュとは違う意味で立香とはバディであることは自負している。ぽっと出に負けるわけにはいかない。
「俺は言葉じゃなくて暴力で解決するから安心しろ立香。反論するヤツは沈黙させればいい」
「逆に安心できないだろうマスター…」
アーサーは呆れつつも微笑む。変な張り合い方をした唯斗に、オリオンとアキレウスも笑う。
「ははは、まっ、そもそも提案したのは俺だからな、責任ってなら俺が持つ」
「見逃した俺たちもな」
「…い、いえ……」
そこに、コルデーの弱々しい声が落ちた。全員、すぐさまそちらに意識を向ける。立香はすぐに体を起こすコルデーを支えた。
「シャルロット!?」
「…誰よりも責めを負うべきは…私のはずです……」
「ゼウス・クリロノミアはどうだ」
唯斗が尋ねると、コルデーもまだ弱々しいながら笑みを浮かべる。
「はい、大丈夫だと思います。アテナ・クリロノミアが体内を駆け巡っています」
「そっか…良かった」
立香は心の底から安堵したように言ったが、コルデーは複雑そうにする。
「いえ、良かったかどうかと言うと、半々ですが…オリオンさんとかがアテナ・クリロノミアを持つべきだったと思いますし…」
「いやいや、いらねぇって。つか、アテナの力を借りてアルテミスと向き合うとか正気の沙汰じゃねーもの」
確かに、ゼウスの子として、女神として、アテナとアルテミスの関係は少し生々しいところがある。
「ふふ…ありがとうございます、皆さん、マスター、それに唯斗さん。サーヴァントは意思の疎通に困らないとはいえ、やはり故郷の言葉はいいものですね」
「それしかできなくて悪い。まぁ、小さい頃に死ぬほど練習した甲斐があった。当時は報われたことなかったけど」
「…少し、分かります。いえ、たった今、分かるようになりました。私も、私が嫌いだった。さっき死んでいたら、ずっと私は自分を嫌いなままだった。でも今は、自分のことを好きになれました。マスターのことも、皆さんのことも好きです」
コルデーの笑みは本物で、ずっと自虐的だった彼女は初めて、自らに対して肯定的なことを述べた。
これで問題は解決した。あとは、ボーダーをヘファイストス・クリロノミアによって改修し、新たなノーチラスとして生まれ変わらせて、この海を突破する。
そして、月女神を撃ち落とすのだ。