神代巨神海洋アトランティスIII−16


コルデーを無事に回復させたあと、ついにヘファイストス・クリロノミアがボーダーに使用された。
ネモの宝具と同期しているノーチラスを含め、シャドウ・ボーダーを核として、新しい船が一瞬で出現する。

その名をストーム・ボーダー、嵐の壁を突破し、海を越え、異聞帯という世界を股にかける嵐を超えるもの。
シャドウ・ボーダーは分離できるようになっており、小型艇として別途稼働できるようになっている。

ブリッジは大幅に拡張され、前方のガラス窓に面した主操縦席は4席、広い間隔を開けて並んでいる。様々な計器が取り付けられ、無数のモニター画面だけでなくホログラムまで動員して、常に多くのデータを表示できるようになっている。まるでSFだ。
主操縦席と窓を前方に、左右にはカウンターのように四角くスペースがそれぞれ設けられており、そこにも2席ずつ、副操縦席が配置されている。動力関係や座標演算などを主に行うことができるだろう。英霊召喚やマスターたちのバイタル、外気測定なども行う場所のようだ。

この合計8席が、カルデア時代からレイシフトを支えてきたスタッフたち8人の席となる。

ブリッジの中央にはペーパームーンが座しており、帯状の世界地図をホログラム投影している。脇にはコンテナに格納されていたときからある古ぼけたテーブルがあり、雑多にものが置かれていた。

そして後方中央、左右の副操縦席と前方の主操縦席、中央のペーパームーンすべてを見ることができる一段高くなった場所に、所長席とキャプテン席、ホームズが座る経営顧問席がある。ここは廊下と繋がるブリッジの出入り口でもあった。
一段降りたところ、所長席などがある場所とは柵で隔てられた位置には、マスターたちが座ることを想定した自由席が、所長席などと隔てる柵に沿って並んでいる。

変わったのはブリッジだけではない。

空間そのものが現代の小型原子力潜水艦よりも大きいとネモが言っていた通りで、広い廊下には窓が並び、ギリシア風の装飾が施されている。
その廊下に沿っていくつもの客室があり、スタッフを含め全員が一人部屋になることができる。もちろん、医務室や工房、機関室、食堂、倉庫、独房など基本設備も整っており、トイレも何カ所かにある。
さすがにバスタブはないが、シャワーもしっかり備え付けられており、洗濯機も何台か用意されていた。

唯斗は一通りアーサーと艦内を見て回ってから、宛がわれた部屋にやってきた。アーサーも一応部屋を用意してある、とネモに言われたが、そのあとすぐに、ネモは「まぁ必要ないかな。あるにはあるから、一人になりたいときがあったら使うといい」と付け足して業務に戻っていった。完全にこちらの様子も筒抜けだ。
事実、アーサーは恐らく、ずっと同じ部屋にいるだろう。カルデアベースならともかく、ボーダーにいるときは異聞帯にいるときである。有事に備えて傍に控えていようとするだろうし、唯斗もそれがいいと思っている。

自室に入ると、その広さに驚く。


「今までの部屋の倍あるな…なのに一人用って…」

「本来はこれくらい揃った環境で君たちは働くべきだった。とはいえ、クリロノミアとネモキャプテンの宝具が合わさると、これだけのものが一瞬でできるというのは、さすがに驚きだね」


アーサーも広さと豪華さには驚いている様子だ。

自室はこれまでの倍以上あり、L字型になっている。各部屋がこのL字を組み合わせるように、左右対称で連続して並んでいるのだろう。
ゆったりとしたベッドは奥まったところにあり、小さな丸い小窓もある。読書灯つきのちょっとしたスペースも脇にあり、とりあえずそこにシャドウ・ボーダーの部屋から持ってきたタブレットなどの私物を置く。

手前側には作業スペースがあり、壁に沿って広いカウンターデスクが据え付けられている。ホログラムで画面を表示する仕組みのようで、デスクチェアも立派なものだ。キャビネットに、天井には装飾の施された天井格納がある。
艦内通信設備も壁に埋め込まれており、同時に3回線は繋げられるだろう。

ワークスペースの反対側、右手にはシャワールームとトイレ、冷蔵庫やリネン棚がある。


「外に出ずっぱりの俺たちはともかく、スタッフにこれだけしっかりした部屋が用意できたのは良かった。後方あっての前線だからな」

「まるで指揮官のようだね」

「ナポレオンが言ってた」

「含蓄に富んでいるね」


近代戦争の概念を生み出した男だ、当然である。
唯斗はとりあえず、デスクのホログラムを起動してデフォルトで表示しておく画面を選択しつつ、ここから直接操作できる機能をざっと確認しておいた。外気温や自身の体調・魔力量の確認、英霊のステータスなどがデフォルト画面でいいだろう。
その中に、異聞帯で契約したアキレウスのデータもあり、手が止まる。やはり、見た目以上の損傷だ。見えている以上に深手を負っている。

ぐっと拳を握りしめると、アーサーはそっと唯斗を後ろから抱き締めた。立ったまま操作していたため、アーサーの顔は近くにあった。


「大丈夫、彼なら必ず、遊撃担当としてケイローンを含め駆逐してくれる」

「…痛い、はずなんだ。苦しいはずなんだ。それでも、頼らないといけない」

「そうだね」

「……その先で、アルテミスとポセイドン、オデュッセウスを倒して、そこからようやくオリュンポスに辿り着いて。あのキリシュタリアともう一度戦って、空想樹を伐採する。しかも、それまでにゼウスやデメテルのような、オリュンポス側の神とも戦わないといけないかもしれない」


この決戦で終わりではないどころか、ようやくこれでスタートに立てるのだ。これは通過点ではなく、スタート地点に立つための戦い。この海は、前哨戦に過ぎないのである。

途方もなく、絶望的だ。


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