神代巨神海洋アトランティスIII−18
ネメシス島、および大艦隊を前方に視認した。
ボーダーとアルゴー、ロイヤル・フォーチュンそれぞれに迷彩魔術を施した上で、各自持ち場につく。
唯斗とアーサーはロイヤル・フォーチュンに乗船して、オリオンが最速かつ無事にネメシス島に上陸できるようフォローする。アルテミスが周囲一帯を吹き飛ばす前に、上陸できるようにしなければならない。
一方、立香、マシュ、マンドリカルドはアルゴーに乗船する。イアソンの指揮の下、アルゴーごと艦隊に突っ込んでロイヤル・フォーチュンから引き離し、次々と艦船の機関部を破壊して機能を停止してはアルゴーに戻るというのを延々と繰り返すことになっている。
アキレウスはパリスを乗せて上空から遊撃を行い、特にアルゴーに接近する適戦力を空襲する。機動力を生かした即応部隊ということだ。
ボーダーはアルゴーとともに艦隊を体当たりや魚雷で水中から破壊していく。
そしてコルデーについては、一足先に離脱した。一人で、暗殺者として単独行動を行うのだ。イアソン曰く、千代女とコルデーは切り札であるとのことで、うまく起爆すれば敵に大損害を与えられるという目算であるらしい。
唯斗はロイヤル・フォーチュンの甲板でアーサー、バーソロミュー、オリオンとともに控え、戦車を召喚するアキレウスを見守る。パリスも傍で控えているが、唯斗はやはり話しておこうと、アキレウスに声をかける。
「アキレウス、ちょっといいか」
「ん、どうした」
戦車を呼び出す前に、唯斗はアキレウスを手招きし、そして周りのメンバーから少し離れた欄干の傍に向かった。そこまで距離はないが、波の音や風、そして立派な黒い帆によって音は非常に拾いにくいだろう。隠したいわけでもないので、これくらいでいい。
「どうかしたか」
「…その傷、本当はめちゃくちゃ苦しいだろ。見せてる以上に」
「……それで?」
否定はしなかった。ただ、それを尋ねた真意を図りかねているようだ。唯斗はアキレウスの胸板に右手を当てる。
「令呪を以て命じる。空は任せた」
「ッ!」
驚いて目を見張ったアキレウスに、唯斗の令呪から魔力が送られる。当然、踵は治らないが、それ以外の傷は回復し、自己修復に必要な魔力量を含め、これから戦車を召喚して常時展開しても問題ない状態にした。
「ちょ、おいマスター、」
「無駄じゃない。なにせ、こういうことはこれで3度目だからな」
第五特異点でアルジュナと戦うために一度。そしてレムナントオーダー中の小特異点で天草とともに戦ったときにも一度。どちらともアキレウスとともに追い詰められ、それでもアキレウスとともに戦うために使用した。
「一度目、俺はアキレウスに、あなたたち英霊に託された人理を、歴史を、先に繋げるために俺たち今を生きる人間こそが戦わないといけないと言って、令呪を使った。二度目、俺を守ることに拘っていたお前に、一緒に勝つために俺がいるんだと言って、令呪を切った。今ここで、俺はアキレウスと最後まで一緒に戦うことは、できないと思う。ケイローンとの戦いに注力してもらわないといけないし、その怪我じゃ、ケイローンを倒してポセイドンも倒して、なんてところまで一緒にはいられない」
「……」
アキレウスは無言で唯斗の話を聞いている。過去2度と違い、今回は共に戦うための令呪ではない。何より、このアキレウスは、その2度を共にしたアキレウスでもない。
「…それでも俺は、あなたに託さないといけない。俺たちの勝利を、汎人類史の継続を、すでに重傷のアキレウスの戦いに。だから俺は、令呪一画の魔力を預けて、アキレウスに託す。信じてるよ、俺のライダー」
「……ハッ、これほど頼もしい信頼も、後を預けられる相手も…得がたいものだと俺は知っている。あんたに出会えて良かった。そして、人理と汎人類史を繋ぐ定めを負った人間が、あんたで良かった。ありがとな唯斗、そっちの俺が羨ましいくらいだ」
そうアキレウスは笑って、最後に唯斗の頭を撫でてから、突然、唯斗の頬に口元を寄せた。
離れた位置から剣が木の板に突き刺さる音が聞こえた気がしたが、軽いリップ音とともにアキレウスは顔を離し、ニヤリとする。
「それじゃ、後は任せたぞ。マスター」
そして、アキレウスは颯爽と欄干の上を走って、甲板近くに戦車を出現させる。そこに飛び乗ると、パリスに声をかけた。
「行くぞパリス!」
「なっ、急に言うなよー!」
パリスはすぐに応じて戦車に跳躍した。そのまま、あっという間にアキレウスは見えなくなる。上空に駆けていった流星を見送ってから、アーサーを宥めるために唯斗も足を踏み出す。
通信からはイアソンの号令が聞こえてきた。
『よーし、全艦攻撃準備!』
『ストーム・ボーダー、魚雷装填完了。いつでも行ける』
「こちらロイヤル・フォーチュン、運び屋の誇りにかけてオリオンをネメシス島に届けよう」
3人のキャプテンが準備を終えて、前方の大艦隊に向けて舵を取る。
『「出撃!!」』