神代巨神海洋アトランティスIII−22
ケイローンはじきに島に上陸し、アキレウスと戦闘を開始するだろう。それまでに、確実にアルテミスを撃ち落とさなければならない。挟撃になるようなことになれば今度こそ終わりだ。
『補助術式問題なし!』
「チャージ完了、いけます!」
ダ・ヴィンチ、マシュの補助術式によって、500キロもの超高高度に向けて射撃弾道が定まる。オリオンは巨大な神造兵装の弓を構え、矢をつがえると、それを引いた。
あまりに重いのだろう、引っ張るだけでオリオンの腕の血管が破れ、血が走る。術式を阻害するため、いたずらに回復術式を干渉させるわけにもいかない。
「宝具解放!
我が矢の届かぬ獣はあらじ!」
その瞬間、矢が勢いよく放たれた。魔力が尾を引いて、まっすぐに光線となって空へと上っていく。すでに夕暮れも深いビロード混じりの空へと立ち上る光はやがて見えなくなり、少しして、眩い輝きが夜空に光った。音は届かないが、光は届いている。
『着弾、外装破壊!神核露出、続けての射撃を推奨!』
ダ・ヴィンチの測定結果を聞いて、オリオンはすぐに矢をつがえるが、血を吐き出す。二発で霊基が崩壊すると言われていたほどの威力だ、体への負荷は相当のものだろう。
しかし、ここで回復をしていてはアルテミスの反撃に間に合わない。
「っ、術式再起動!」
マシュは迷いながらも補助術式を起動する。オリオンは呻きながらも弓矢を起動して、再び矢を構えた。
術式に魔力が装填されていく間、突然、念話がアキレウスから繋げられた。
(マスター…ここ、までだ…倒せては、いねぇが…あとは、ヤツに……)
(アキレウス…ありがとう、必ずケイローンは俺たちで倒す。そして生き残る。おやすみ、俺のライダー)
(……あぁ)
アキレウスはケイローンを無事に浜辺で押しとどめてくれた。ここから最寄りの海岸線までの距離を考えれば、ケイローンの速度を考えても、まだ少し余裕はある。二発目には間に合うだろう。
あとはオリオンに託すということなのか、ケイローンに最後勝てということなのかは定かではないが、最後にきちんと別れが言えたのは良かった。
そこに、ダ・ヴィンチから警告が発せられる。
『超高出力反応!まずい…!』
「間に合った!
我が矢の届かぬ獣はあらじ!」
間一髪で間に合ったオリオンは二発目を発射する。
同時に、アルテミスからの砲撃も行われたらしい。眩い死の光が空から降り注ぎ、光線となった矢と直撃する。
高高度爆発によって、上空数万メートルで爆風が発生、眩い光が空全体を包み込み、空気の薄い高度における光速での粒子の衝突によって、空全体で発光現象が起きていた。まるでオーロラが爆発したかのように、美しい光が一瞬だけ空を満たした。
それが晴れた直後、オリオンは「なに…?!」と瞠目する。
愕然としたようなダ・ヴィンチの声も通信に入る。
『……相殺された。次弾の装填が早くなったんだ、これが星間狙撃型戦闘機…!!まさか彼女、学習しているのか!?』
『な…なに!?矢、矢、代わりの矢は!!』
焦ったようなゴルドルフの声も入るが、さらにダ・ヴィンチは声を震わせて叫ぶ。
『嘘、三連続…!?逃げて!!!』
ここまでダ・ヴィンチが焦りと恐怖を露わにしたことはない。もう、三発目が放たれようとしているらしい。間に合うわけがない。
仮に間に合ったとして、オリオンの体はすでに崩壊し始めており、そもそもつがえるべき矢も存在しない。
「っ、アーサー!」
「ああ!」
なんとかエクスカリバーで相殺できるか試すほかないだろう。マシュの宝具も解放して、マンドリカルドも宝具を展開して、そうすればなんとか三発目は耐えきれるか。しかしそのあとは。
そう思った直後、唯斗の令呪が突然熱をもった。
「っ、な、んだ…!?」
『召喚…!?今、その場に誰かが召喚されようとしている!』
「っ、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」
令呪、そして左手の魔術刻印それぞれが熱を持っている。これが召喚であることは、その道の家に生まれた唯斗にはよく理解できていた。
迷うことはなく、すぐさま簡易詠唱を左手の刻印に添えて行えば、マシュの盾もあって、召喚は無事に成功する。
魔力の霧が噴き出すのと同時に現れた英霊は、立ち上がるとすぐに臨戦態勢になる。
「…ああ、説明はいいさ。オジサン、やるべきことは理解してる。なんせ、あのバカから聞いているからね」
「な…っ、」
現れたのは、槍を構えたもう一人のトロイアの英雄。同時に、唯斗はアキレウスの言葉の本当の意味を理解する。
彼が最後に託したのは、やはりこの男だったということか。
「我が名は兜輝くヘクトール!この瞬間、月女神から貴殿らを守るためだけに召喚されたサーヴァントなり!」