神代巨神海洋アトランティスIII−24
マンドリカルドは急いで立香の元へ駆け寄ると、しっかりと目を見据えた。
コルデーに続いてのこれだ、立香の心を想って、唯斗は少しだけ目を逸らしてしまう。
「…予定より少し早いが、ここでお別れだ、友人」
「…っ、」
「…そんな顔されると困るっす。俺たちは本来、世界を救うために召喚されている。でも俺は、個人的な意志でこうしたい。友達を助けたい。お前を助けたい。そのためには、これしかないんだ」
ギリシア神話でドゥリンダナ、フランス語でデュランダル。それを手に入れるまでは剣を手にしないという誓いを果たすとき、マンドリカルドの宝具は完成される。その力でもって、最後のアルテミスの矢を相殺するのだ。
唇を震わせる立香に、マンドリカルドは困ったように笑う。
「俺だってつらいさ。英雄として、サーヴァントとして、誇り高い瞬間を迎えるとしても。友人としては、先に別れるのはつらい。でもだからこそ、俺はお前を助ける友達になる。気にするなってのは無理だろうけど…」
マンドリカルドは立香の肩に手を置いた。
「泣くのは後からでいいよ。じゃあな!」
最後に、マンドリカルドはそう笑ってから、遠く離れた場所に着弾した槍に向かって走り出す。その背中を見つめる立香の拳は強く握られていて、唯斗も堪えるために奥歯を噛みしめる。
マンドリカルドは生前の誓いを破棄し、ヘクトールの槍を掴んで地面から引き抜く。その高らかな宣言は、離れたここまでしっかりと聞こえてきていた。
「我が手には約束の絶世!不毀の極剣!我が友を守るため、今ここにその力を解放する!」
瞬間、マンドリカルドの手にあった槍は剣に姿を変えていた。立派な騎士になりたい、とバーソロミューに話していたが、今、マンドリカルドは友として、友のために剣を構えていた。
「第二宝具!
絶世の儚剣!!」
迫るアルテミスの矢を、マンドリカルドの剣が受け止めた。たった一人で、一国を蒸発させる破壊の光を跳ね返し、その体が焼き切れてもなお、その死をこちらに届かせることはなかった。
マンドリカルドの霊基が消失すると、アポロンも消失する。パリスを矢にするためだ。
光が晴れて夕空が戻るのと同時に、パリスは立香に溌剌と告げる。
「マスター!それでは僕もここまでです!」
「…パリスも行くの?」
少し震えたその声音は、立香にしては珍しい、いや、こういう任務中には初めてとなるような弱々しいものだった。
時間神殿で、ロマニを前に同じようなことがあったが、あれは理解しきれていない中でのことだった。今は、明確にすべての別れを理解している。
「はい。結果的に命を捨てるのと、命をただ散らすのは違います。僕も英雄ですから、今ここで、これができるのは僕だけなんです。後は頼みます、オリオンさん!」
「あ、あぁ…」
『しかしその腕では…』
ダ・ヴィンチが言うとおり、すでに崩壊しかけた霊基では、もう矢を引くことはおろか指を動かすこともできないだろう。それでも、女神を射貫くのは、この男しかいないのだ。
唯斗は立香のところに向かうと、その肩を掴む。
「唯斗、」
「立香!しっかりしろ、今は、今は前に進むんだ!戦わなきゃいけないんだ!」
「っ、」
以前、東京の特異点で母の死を目の当たりにしたときの唯斗と真逆の立場になっている。しかし本質は同じことだ。
唇を震わせる立香だったが、通信からはゴルドルフも立香を叱りつける。
『藤丸!!何をボサッとしておるか!!貴様には令呪があるだろう!すべて使い果たしてでも、オリオンを復活させろ!そして矢を撃たせるのだ!無理矢理体を動かすのだ、つらいに決まっている。だが、それでも立たねばならんときというのが英雄にあるのだよ!それを、5つの異聞帯を通して見てきたのではないのかね!!』
その言葉に、立香も奮い立って右手をかざす。
「令呪を以て命じる!月を撃ち落とせ!」
「あぁ!」
令呪三画を消費して、立香から魔力がオリオンに装填される。オリオンは再び立ち上がり、弓を持った。
パリスは消失の光に包まれながら立香に笑顔を向けた。