神代巨神海洋アトランティスIII−28
現れたサンソンに告げると、サンソンは驚いたように目を見張る。だが、人を殺させないようにする唯斗が自分を殺させるわけがないとサンソンはよく理解しているため、すぐに応じた。伊達に第二特異点からの仲ではない。
「ギルガメッシュ戻ってくれ、代わりにディルムッド出てこい」
「ディルムッドここに」
「すぐアキレウスの近くまで移動してくれ」
唯斗はギルガメッシュの腕から出て走り出すと、ギルガメッシュを下がらせてディルムッドを呼び出し、すぐに指示した。そして、走りながらアキレウスが引き倒したケイローンに向けて左手をかざす。
「俺がトドメを刺す!」
「っ、ナメるな…!」
ケイローンはすぐに起き上がって矢を放つ。すぐに唯斗は詠唱して結界を展開した。
「
鉄の人よ、天より来たれ」
その結界で矢は防がれるが、さらに立て続けに詠唱する。
「
天よ、地よ、真実を見よ!」
魔力のメンヒルがケイローンに直撃し、次々と爆破を起こしていくが、もちろん、効いているわけがない。唯斗はアキレウスに向けて声を張った。
「行け!アキレウス!!」
「見え透いたことを!」
ケイローンは後ろから迫るアキレウスを振り返りもせずに特大の矢で迎撃する。アキレウスは呻いて吹き飛ばされ、壁に激突した。
さらに、間髪を入れずに唯斗に向けてもノーモーションで矢を放っていた。もはや避けることはできないはずのものだ。
しかし、すでに唯斗の体には、黒い手が絡みついていた。
「
死は明日への希望なり」
サンソンの宝具から伸びた手に捕まった唯斗は、すぐに立っていた場所から引き離されて急速にサンソンのギロチンへと引っ張られていく。
それによって矢は唯斗に当たることはない。瞠目したケイローンの背後に向けて、唯斗は右手をかざした。
「ディルムッド!行け!」
最後の令呪を切って魔力を送れば、ディルムッドの宝具も発動していた。
「
破魔の紅薔薇、必滅の黄薔薇!!」
「なッ!?」
ケイローンは避ける間もなく、ディルムッドの2本の槍に貫かれていた。片方は魔力を無効化する破魔の槍。片方は、受けた傷を永遠に癒やせない必滅の槍。それらを同時に受けたのだ、いくらウラノスの子といえど、ケイローンはもう立つこともできなかった。
オケアノスの海でも同様にディルムッドに令呪を切って最後の攻撃を決めさせた。オケアノスに代わって海を支配したポセイドンの上でもまた、令呪を受けたディルムッドがトドメを刺した。
サンソンは宝具の展開を中止して、唯斗を抱き留める。
ケイローンは口から血を流しながら、唯斗を、そしてやってきたアキレウスを順に見遣った。
「…なるほど……感情論でアキレウスを呼び出した、という仇討ちの戦いなど…最初からなかったのですね……アキレウスによる攻撃も…あなた自身の仇もすべて…ブラフ…」
そう、最初から唯斗は仇討ちとしてアキレウスを呼んでいたわけではなかった。彼自身がそれを望んでいたわけではなかったし、この世界のアキレウスではないアキレウスにそれをさせても、誰も報われない。
それをアキレウスも理解していながら、いつもとキャラが少し違う唯斗に乗っかっていたのだ。
アキレウスによる仇討ちの戦い、そう思い込んでいたケイローンは当然、今のアキレウスの宝具と唯斗自身による攻撃が、二人にとって力の入ったものだと思った。
そしてアキレウスをいなして、唯斗を攻撃した。
唯斗はもちろん、人間に過ぎずケイローンの素早い攻撃を避けきれるわけがなかったが、人間に対して確実に処刑を執行するサンソンの宝具の拘束力の方が上回るため、唯斗は避けることができた。
まさか宝具を回避のために使うとは思わなかっただろう。
そして、最後に関係ないディルムッドに令呪を切ってトドメを刺した。仇討ちという青臭い目的そのものを囮にして。
「…なんと…これは、食わされましたか…」
「汎人類史でケイローン先生に教わっていたマスターだ、あんたに感情論で挑むわけねぇだろ。あんたが理解できなかったのも無理はねぇ。唯斗は、それだけあんたを尊敬していた。あんたを含め、歴史への敬意を持っていた。だからあんたは、警戒されていることを警戒するべきだったんだ。ま、今更だがな」
アキレウスはそう言って、槍を引き抜いたディルムッドとともにこちらに戻ってくる。