星間都市山脈オリュンポスI−8


南部方面に向かったのは、単にデメテルの戦闘の痕跡を確認しに行くためだった。汎人類史のサーヴァントたちを見つけ出す手がかりを探す目的もあった。
しかし、想定よりも一気に事態は進む。

それは、あまりに唐突だった。

何か、違和感のように胸につっかえる感覚。晴れ渡る青空に星が煌めくような美しい空の下、なぜか、それに圧迫感を感じている。

周囲の人々も同じようで、いったい何かと訝しんでいる。

その次の瞬間、突然地面が震動し、爆発音が聞こえてきた。破裂音に近いそれは、音速を超える衝撃波が空気を一瞬で震えさせる波音。同時に、ところどころでビルのガラスが割れ、人々はよろめいて悲鳴を上げる。

直後、悲鳴混じりの声が聞こえてきた。


「デメテル様だ!」

「また、またなの…!?」

「デメテル様が真体(アリスィア)を降臨させた!!」


ざわめく群衆の声から、デメテルが姿を現したのだと分かる。しかし、アリスィアとはなんなのか。
唯斗はすぐに走って道路を東へと向かう。確か、この先をまっすぐ行けば西部地区の東端に出る。
蓮の花のように折り重なった3層の市街地のうち、南側は最も低くせり出している。西部地区の東端は、その段差にあたる場所だ。
通りを曲がれば、前方が開ける。すでに多くの人々が集まり、祈りを捧げたり恐怖に震えていたりとざわめいている。

唯斗もその中に混ざると、柵の下に断崖絶壁があり、その遥か眼下に南部地区の西端がある。段差の高さはおよそ500メートルほど、ここから中央に向かうとよりその差は縮まるが、反対に外縁に向かうと1000メートル近くになっていく。南部地区だけは、市街地が下に向かって下がっていく坂道になっているからだ。それ以外の北、西、東はすり鉢状にドドーナとクロノス=クラウンを囲んでいる。

段差は、それを超えるためのエレベータータワーが一定間隔で段差に沿って聳えており、高速道路は段差を超えて南部地区に入っていく。

そして、眼前に広がる巨大な南部区画の市街地の北側、中央の超高層ビル群付近に、球体の宇宙船が浮かんでいるのが見えた。

目視だが、恐らく直径800メートルから1200メートルほどの球体である。上部は雲がかかっているほどだ。
中央部に切り込みのようなものがあり、その中にはまるで肉に見える内側が見えている。そこに向かって、流線模様があった。まるで精子と卵子だ。まさに地母神の神体らしい。

そのデメテルの下に広がる市街地からは、無数の黒煙が上がっていた。炎上し、ビル群が完全に折り重なるように破壊されている。高層ビルのいくつかは原型を保っているが、途中が抉れているものや、傾いているもの、折れているものなどすべて破損していた。


「またもデメテル様が…」

「いったい何が起きているというんだ、今年は…」


押し殺したように話す人々の言葉は、先ほど聞いた話と同じだろう。南部でデメテルが行った掃討作戦によって、同じ光景がつい最近も見られたということだ。

デメテルは浮遊して移動すると、少し南下、破壊されていない区画の上空に移る。
そこで、その体にエネルギーを凝縮させていく。機械の重い駆動音がここまで聞こえてきたと思った直後、その直下に向けてレーザー光線のようなものが放たれた。その衝撃波は、水平方向に伝わっていき、こちらにも届く。
再び破裂音のような衝撃波の音が辺りに響き渡り、遅れて肌に風を感じる。

同時に、デメテル直下の半径4キロ圏内の地面が、突如として盛り上がった。地表に立つビル群や高速道路の高架が地面ごと押し上げられ形を崩し、ガラスが割れ、粉々になりながら持ち上げられていく。その地表が完全に砕けきったその瞬間、地下から猛烈な勢いで吹き上げるようにして爆風が垂直方向に吹きすさんだ。まるで間欠泉が地面を押し上げて粉砕するかのように、直径8キロにおよぶ市街地が破砕されたのである。

汝、星を鋤く豊穣。それがあの権能の名前だという。あれは耕すという行為の延長にあるものだ。しかし、それは大都市を地中から丸ごと混ぜ返して破砕する死と破壊。こちらにも悲鳴がうっすらと聞こえてくるが、あの直下ではどのような地獄が繰り広げられているのか、想像に難くない。


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