星間都市山脈オリュンポスI−14


ダ・ヴィンチもどうやら少しは復活したようで、通信から起動方法を説明する。
すでにマシュは換装を終え、盾を軸に巨大な地対空ミサイル型の砲身を完成させていた。


『ただし、この令呪の使用はいつもと違う。君の今のすべての魔力、体力、運命力さえ動員しての令呪使用になる』

「は……」


しかし、続けたダ・ヴィンチの言葉に唯斗は愕然とする。立香はすべての力を使う、くらいにしか理解していないのか、「分かった!」と勢いよく返事してマシュの元へ向かうが、唯斗は信じられない気持ちになった。


「ダ・ヴィンチ…お前、何言ってるのか、分かってるのか…?」

『もちろん。これが極めて残酷なことだと理解している。君の謗りも甘んじて受ける。だが、ここで躊躇えば、もう後はない。デメテルを倒せなければここで汎人類史は終わりだ』

「マスター…?」


アーサーは唯斗の動揺に怪訝にした。唯斗は説明したい気持ちは山々だったが、すでにデメテルも反撃態勢になっていたため、これ以上は何も言えなかった。

運命力とは、平たく言えば一般的に「運」と呼ばれるものの類いを意味する魔術用語だ。ある結果を導くために期待される力のことであり、その有無や程度がもたらす結果を左右する。
恐らく立香のそれはひどく大きなものだ。グランドオーダーから今に至るまで、立香を救った偶然は、運命力によって導かれたものである。立香の運命力でも及ばないところで初めて、抑止力が人理のために作用したのだろう。
それを削るということは、これまでなら助かった場面で助からない、これまで怪我をしなかった場面で怪我をするなど、立香を守る天命のようなものが薄まっていくことを意味する。

白紙化事象が解決し、何事もなければ立香は元の生活に戻ることになる。この先の人生で、欠けた運命力を補う抑止力は当然働かないのだから、何が起きるか分からない、なんてことになるかもしれない。


「…まだ…立香から奪うのか……」

「マスター?どうかしたかい?」

「…や、なんでもない」


本当は唯斗が代わりたかったが、マシュしか扱えない代物である以上、令呪装填は立香にしかできない。


「機神デメテル、その運命を観測しました。生命距離弾、逆説から真説へ。砲身固定、同調完了しました!マスター!」

「令呪装填!」


立香はマシュの肩に手を置いて令呪を切る。一画を消費して、その魔力がバレルに注がれる。


「バレルレプリカ、フルトランス…!射撃!!」


マシュはついにブラックバレルを射出した。
その砲身から、禍々しい黒い光が放たれる。光の拡散によって、周囲には赤い光を投射しながら、光線そのものはなんら光を通さない黒い色をしている。

これが世界を救うための攻撃とは皮肉なものだ。神を殺す、そんな非道徳的な死の光を放つカルデアは、まさに言葉通り、この世界からすれば悪魔の所業と言える。


「着弾!コア貫通を確認!」


マシュが観測結果を述べた瞬間、デメテルを貫いた黒い光は爆発を起こした。光が貫いたその方向に向かって炎が勢いよく球体から噴き出し、巨大な機体はゆっくりと落下していく。
瓦礫を押しつぶし、かろうじて立っていたビルを押し倒しながら地表に落下したデメテルは、バラバラとその外装を崩壊させていった。

ホームズも霊基反応が消失したことを確認する。


「…おめでとう諸君、作戦はここに完了した。我々の勝利だ!」


神霊でもない、正真正銘本物の神。それをついに打ち破った。本来なら喜びもひとしおだが、唯斗はそんな勝ち鬨も聞かずに立香のもとへ駆け寄る。


「立香!」

「あ…唯斗……」


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