星間都市山脈オリュンポスI−15
唯斗を見るなり、ふらりと立香の体は傾く。唯斗が立香を抱きかかえ、ゆっくりと地面に座らせると、すでにその意識は朦朧としていた。目の焦点が合わず、何か言葉を発しているが発声できていない。
「先輩!」
「立香君!?」
マシュ、武蔵も焦った様子で立香に駆け寄る。唯斗は膝に立香の上体を乗せて安定させると、その胸元に左手を当てる。
「
生は死とともにあり、死は生とともにある」
唯斗ができる回復術式の中で最も高度なものを立香にかけて、まずは生体治癒を行う。続けて、腰からサバイバルナイフを取り出すと、右手で持ったままナイフを開き、左手の平を切りつける。
鋭い痛みとともに血が少し散って、マシュやアーサーが驚いたようにしたが、それには目もくれず、唯斗は滴る血を立香の半開きになった口に垂らす。あまり衛生的な方法ではなくて申し訳ないが、今は一刻を争う。キスでもいいが、唾液による魔力供給は立香にそれを飲み下す意識がないと意味がない。強制的に押し込むには、直接血液を流し込んだ方が速い。
「ホームズ、『聞かれている』のは知ってる。ここでは何も聞かないから、早く立香を安全な場所へ」
「分かった。恩に着るよミスター雨宮、さすがの判断力だ」
「御託はいい。一刻を争う…よし、マシュ…はきついか、武蔵」
「了解した、私が連れてく」
とりあえず応急処置は済ませた。あとは、彼らの安全な隠れ家に運んでもらわなければならない。
急いでホームズの先導のもと、一同は瓦礫の合間から地下施設へと入っていく。無骨な作業区画のような廊下を進むと、やはり無骨で機械的な空間に辿り着く。まるでシェルターのようだ。
「ここは…」
「可動式地下機構、冥界の神ハデスの領域です」
広間の中央に市街地の地図、そこから放射状に伸びる廊下と様々な部屋。まさに核シェルターのような構造に呆気にとられていると、聞き慣れない少女の声が返された。
ホームズとマシュ、武蔵は立香を連れて、別の少年とともにどこかの部屋に運んでいる。唯斗とアーサー、カイニスに対して少女が説明してくれた。
「ここは破神同盟の基地です。アトランティスからオリュンポスにやってきた汎人類史の英霊の皆さんが使っていた場所で、私たちオリュンポス市民の同盟参加者も利用していました。とはいえ、英霊の皆さんはすでに全滅。市民側も、私たちを残して全員殺害されました」
「…そうか。ここまで協力してくれてありがとう。俺は雨宮唯斗、同じくカルデアのマスターだ。こっちは汎人類史…でもない、のかな、ちょっと変な立ち位置だけど、アーサー王だ」
「アーサー・ペンドラゴン、ブリテンの王をしていた。この世界線とは別の世界から来た放流者だ。今は縁あって、汎人類史のカルデアとともに異聞帯を巡っている」
「……俺はカイニス。以上」
流れで一応カイニスも名乗ったが、名乗っただけ譲歩だろう。少女は苦笑してから自己紹介してくれた。
「私はアデーレ。正当なオリュンポス市民ですが、破神同盟に加わっています。そして…」
「俺はマカリオス。双子の弟だ」
双子であるらしい二人はアデーレとマカリオスというそうだ。マカリオスはどうやら回復術式の施された部屋に立香を案内したようで、マシュたちは引き続き、部屋に留まっている。
マカリオスとともに広間に戻ってきたのはホームズだけで、椅子に座って一息ついていた。
「…二人は、カルデアの目的は知った上で協力してくれてるのか」
「ああ。俺たちはこの世界の終わりに繋がる戦いだと理解して破神同盟にいる。たとえ滅ぶんだとしても…俺たちは、昨日とは違う明日が見たい」
1万年に渡り満ち足りた生活をしてきた人々。だからこそ、この世界は袋小路になった。
そして、それを良しとしない者もいて、そんな人々がカルデアに力を貸してくれるのだという。
「…そっか。ありがとう、詳しいことは聞かないし、生命としての前提が違う俺たちとの議論も必要ない。ただ、二人の覚悟に感謝と敬意をもって、改めて俺からも協力を頼む。よろしくな」
「私からも、あなたたちの意志に最大級の敬意を示そう。そしてカルデアに力を貸してくれることに感謝を」
アーサーも同じく述べると、アデーレとマカリオスは少し照れたようにしてから頷いた。