星間都市山脈オリュンポスII−1
翌日、オリュンポス到着3日目。
当面のカルデアの目標が定まった。破神同盟の英霊たちが残したAIが説明してくれたところによると、破神同盟はゼウスを倒すべく、冠位英霊を召喚するつもりだったらしい。
聞いたときは唯斗も目が点になったものだが、それが可能であると判断されたということは、つまり、ゼウスがそれに釣り合う存在であるということだ。オリオンが忠告してくれた通り、人理はこの異聞帯を、ビーストに匹敵する世界災害だと認識しているのである。
なお、破神同盟の英霊たちというのは、ニコラ・テスラを筆頭に、エジソン、ブラヴァツキー、金時、源頼光、モードレッド、フランケンシュタイン、そしてランサー・アルトリアである。他にもいたようだが、相手がゼウスと知って退去した者もいたため、このメンバーが主力だったということになる。
今後の作戦としては、まず市街地全域に展開する召喚術式の構築のため、7つの術式陣地を作成する必要があり、南西側の4カ所は敷設が完了している。
残る3カ所は東部に集中しており、そこでその敷設を行い次第、術式は起動可能な状態になるという。
そこで、その日のうちに東部に移動して、早速残る召喚術式の設置を行うことになった。
地下基地はそのまま東部へとレールに乗って移動していく。どうやらこうやって移動して都市の工事を行うための施設であるそうだ。
もとはハデスの領域であったが、第四のマキアに際してハデスは共生派だったため、敗北した際に自爆。この地下機構そのものを封鎖し、共生派の生存者だけが使える状態にした。
これによってゼウスはこの地下機構の機能を統合することはできず、他の破れた神と違い、ハデスの権能だけがゼウスの中には存在していない状態である。
そのため、この基地はゼウスに会話を聞かれることもない、まさに文字通り秘密基地となっていた。
移動することほぼ1日、地上での移動に比べれば実に早く基地は東部地区に到着する。
「東部地区地下に到着しました。ここから先、皆さんは南部区域の端からやってきた私たちの遠い親戚ということにしましょう」
地上では双子も協力してくれるようで、カルデアにはある程度設定が設けられることになった。
武蔵が姉、立香が弟、そしてマシュが末の妹という設定で、マカリオスたちの親戚という位置づけだ。
ホームズは霊体化して見守ることになり、カイニスは「演技は御免だ」と残ることになる。
南部から来たという細かい設定は、デメテルの爆撃によって家を失い、復旧するまでの数日間を泊まらせてもらうという体裁だろう。あれから、デメテルの権能はゼウスが引き継ぎ、ゼウスによって復旧が進んでいる。
しかし、ハデスの権能を無理矢理奪取できなかったように、ゼウスはオリュンポス経営に莫大なリソースを割いているため、デメテルの代わりについてもデメテルよりは若干効率が落ちているようだ。
「問題はアーサーさんですね…」
「おや、何か問題かな」
すると、アデーレはアーサーを見て困ったようにした。マカリオスも難しい顔になる。霊体化できない以上、アーサーも姿を見せることになるが、何か不都合でもあっただろうか。
唯斗もアーサーも首をかしげると、アデーレは観念したように口にした。
「その…正直、オリュンポスであっても…ええと…あまりに容姿が優れすぎていて、変に目立ってしまうな、と」
「ゼウスの耳は、全市民の会話を監視してる。あんまり異物感のあるリアクションが続くと怪しまれる」
「顔が良すぎて邪魔…ってことか」
「マスター…」
端的に述べた唯斗に、アーサーは非常に微妙な表情を浮かべる。ここは、アーサーについては隠しておいた方がいいと判断する。
「しょうがないか、世界で一番格好いいもんな。よし、じゃあアーサーには迷彩術式をかける。あんま俺から離れるなよ、人多いから。そんで俺は立香の友人で学生ってことにしよう。西部でも同じ設定でやってたし」
「……そうですね、それがいいと思います」
アデーレは苦笑してそう返して、マカリオスは不思議そうにしている。立香たちは笑っていたが、カイニスはドン引きしていた。アーサーは少し照れつつ、フードをおもむろに被る。迷彩術式をかけるのだから必要はないが、恐らく、今隠したいのだろう。
さすがにそれくらいは分かるようになった唯斗である。