星間都市山脈オリュンポスII−2


地上に出ると、辺りは夕暮れになっていた。
どこも市街地は同じ、という風に言われていたが、この辺りは彫刻街として有名らしく、高層ビルに匹敵する巨大な彫像が街のあちこちに聳え立っていた。

人の往来も活発で、多くの市民が行き交っている。


「あっ!マカリオス兄ちゃんたちだ!」


すると、双子を見つけた子供たちがわらわらと駆け寄ってきた。顔見知りらしく、マカリオスたちも表情を緩める。


「久しぶりだな、お前たち。元気だったか?」

「元気!毎日アンブロシア食べてるから元気!」

「兄ちゃんたちはオリュンポスを旅してるんだよね、南部に行ってたんじゃなかったっけ」


子供たちははしゃいでいるが、この精神性を1万年保つというのはどういう理屈なのだろうか。
それに耐えきれなくなったからこそ、マカリオスたちのような抵抗勢力が出てきたのだろうが、袋小路になった人理であるというのも頷ける。


「南部は大変だったんでしょ?大丈夫だった?」

「ええ、街は大変なことになって怖かったけれど、大丈夫よ」

「こっちのお兄ちゃんたちは誰〜?」


子供たちは二人が無事であることを確認できてホッとしたのか、今度は唯斗たちに関心を移した。
好奇心旺盛な様子で、見かけない顔に興味津々だ。


「そちらは私たちの遠い親戚と友人なの。南部の家が壊れてしまったから、挨拶もかねて少し私たちの家に泊まることになったのよ」

「そうなんだ、大変だったね…」


基本的には善良なオリュンポス市民だ、家をなくしたという話に痛ましそうにする。一方、立香とマシュはなんと返したものか、と戸惑った。自分たちが元凶である自覚がある分、なんとも言いがたいのだろう。
そこで、唯斗が代わりに口を開く。


「ありがとな、でもゼウス様のご加護のおかげでこうして無事だ。こうして東部に来る機会にもなったし、アフロディーテ様の分神殿に行くことができる」

「それがいいね、ここはアフロディーテ様の愛に一番近い街だから!」


板についた市民の演技に、立香たちは感心したように唯斗を見ていた。そんなあからさまなリアクションをしないで欲しい。アデーレも苦笑してから、「明日にでも行きましょうか」と一言添える。
こちらの様子に安堵したのか、子供たちは思い出したように別の話題に触れる。


「そうだ、カルデア見た!?世界を滅ぼす悪魔なんでしょ!?」

「右手に悪魔の紋章があるって!真っ赤な紋章!」


唯斗は引き続き令呪に偽装を施しているほか、立香もマシュの術式スクロールで令呪を隠している。今度は令呪によってバレることはない。

それはそれとして、やはり子供たちの純真な目で、カルデアへの敵意を明確にされることに、恐らく立香もマシュも堪えるだろう。あまりこの話題を長引かせたくない。


「俺たちは見てないな。マカリオスたちは?」

「俺たちも見てないし知らない」

「なーんだ…カルデア、ここには来ないよね。来たらみんな死んじゃうんでしょ」


マカリオスは少しぶっきらぼうに返したが、子供たちは特に気にした様子はない。だが、東部にも来てしまったら、という不安を覗かせた。それは仕方ないことだ、カルデアが直接何かをしていなくても、デメテルなどの戦い方を見れば、巻き込まれてしまう可能性は十分にある。何より、ここ数千年の平穏に慣れた状態では恐怖も大きいだろう。


「そうならないようにお祈りをしっかりしなくちゃな」

「そうだね!そうすれば、カルデア、ゼウス様や兵隊さんたちにやっつけられて死んじゃうもんね!」

「うん、悪いやつらは早く死んじゃえばいいんだ!」


危うく唯斗も張り付けた笑みが引き攣りかけたが、立香とマシュがたじろぐ気配を感じて押しとどめる。やはりこういう場面はこれまで初めてとなるため、かなり堪えるものがあるだろう。
唯斗はそういった悲しみよりも、異聞帯であっても同じ人間の性質というものを感じている。この子供たちが特別野蛮なのではなく、子供たちがこういう考え方をしてしまうような環境を大人が与えてしまうこと、それ自体は異聞帯も汎人類史も変わらないということだ。
そして同時に、死というものが身近ではない子供たちにとって、死が気軽に扱えるものであるということも同じである。だから、唯斗はあまり気にしていない。汎人類史だって、こういうものだからだ。

一方、武蔵は怒りこそしないものの、いつもより真面目なトーンで言葉を発した。


「本当にそうかしら?悪いやつだから死んでもいい、なんて短絡的すぎかもしれないわよ。彼らには彼らで事情があるのかもしれない。私たちにも、理解しなきゃいけないことがあるのかもしれない。そして、カルデアは…彼らは、どのどちらも踏まえた上で、逃げずにこのオリュンポスに挑んでいるのかもしれない」


異聞帯の人たちのことも、その運命も知ってなお、それでも戦うことを選んだカルデアに対して、武蔵が考えていることの一端なのだろう。立香は目を見張っている。普段とぼけた態度をしている武蔵だが、その世界の捉え方は端的に本質を見据えている。
だからこそ、その言葉はまっすぐ心に届くのだ。


「うーん…よくわかんないけど…そうだったら、なんか…もやもやするね」

「うん、もやもやする…でもね、でもね。悪いことは、理由があってもしちゃいけないんだよ」

「そうね、君の言葉は正しいわ。でも覚えておいて。人間は常に正しくいられるわけじゃない。正解だけを選べる生き物じゃないの。でも、悪を悪として認めた上で傷つき、善を善として信じた上で裏切るのなら…私は、ただ殺そうとは思わない。理由を知りたいと…その理由を誰かに覚えていてもらいたいと、そう思うんだけど、どう?」


子供たちは難しい話に戸惑っているが、その言葉が最も必要な者にはきちんと届いた。唯斗がこうして武蔵と行動するのは初めてのことだが、これまで何度も立香の窮地を救ってきてくれただけある、と納得する。
100%正しくなかったとしても、善と悪を自分なりに理解し、それを踏まえた上で戦っているカルデアを、武蔵はそうやって認めてくれているのだろう。


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