始まりの惨劇−3
二段ベッドが二組置かれた独房の中、一人で過ごすこと数時間。部屋には唯斗一人だが、外には兵士が見張りとして立っている。トイレも食事も一人だけで監視付きらしい。
恐らくゴルドルフは、父の術式とはいえ聖杯も莫大な電力もなしに英霊召喚を部分的に成功させた唯斗を警戒している。グロスヴァレと雨宮の召喚科での功績は大きく、父の禁忌によってその名は地に落ちたものの、実力そのものは恐れるに値すると考えている。
事実、唯斗はグランドオーダーとレムナントオーダーの過程で、ケルトの英雄クー・フーリンのキャスター、ウルク初期王朝の王であり人類最古の英雄であるギルガメッシュ、そしてグランドの称号を持ちうる存在である欧州最高峰の魔術師マーリンなどに魔術を教わったような経歴を持っている。そのことまでは報告書には記載していないものの、確かに自分が魔術協会の人間であれば、一番力を持ってはいけない人物が力を持った状態は芳しくないだろう。
しばらく独房でベッドに横になっていると、突然、部屋の扉が開いて異質な人物が入ってきた。コヤンスカヤだ。
「はーい♡一人で暇を持て余す青少年の部屋を訪れた突然の美貌、コヤンスカヤです」
「…、うわ」
思わず引いたような声を隠せずに出してしまった。コヤンスカヤは気にせず、起き上がった唯斗の反対側のベッドに腰掛ける。
「まぁ、なんて固いベッドなんでしょう。家畜でももっとマシな場で寝るというものですわ」
「…何か用か?査問会以外の場で喋るのは体裁が良くないだろう、あんたの」
「ええ、なのでこれは内密に。あなたも暇つぶしをこんな美人とできて棚ぼたでしょう?」
やはり痴女か、と冷静に思いつつ、コヤンスカヤの出方を窺う。
ゴルドルフや言峰はまだ分かる。然るべき立場の人間だ。しかしコヤンスカヤは謎だった。NFFサービス、と言っていたが、見るに傭兵企業か何かだろう。名前からしてもロシア系なのは間違いない。
そして、それしか情報がない立場である相手を前に、唯斗は警戒していた。いったい何者か、まったく予想もつかなかったからだ。
「雨宮・グロスヴァレ・唯斗、召喚科の名門であるフランスと日本の家柄同士のサラブレッドの子であり、父が死者蘇生というタブーを犯したことで腫れ物扱いにされた悲運の子。父親の凶行を生き延びて一時的な英霊召喚成功を実現しただけでなく、カルデアで一般人マスターとともに人理を救ったなんて、まさに劇的な人生ね?」
「…だから?聞きたいことがあるならさっさと聞いてくれ」
「まぁ、つれませんねぇ。ではお望み通り単刀直入に聞きます。Aチームについて、3ヶ月ほど一緒に過ごしていたはずですが、どこまでご存知です?」
「…Aチームについて?どこまでってのは、カルデアに記録された以上のことを俺が知ってるか、ってことか」
「その通り。まさか何も知らない、なんてことないわよね?もう一人のマスターは一般人だけあって何も知らなかったようだけど、あなたは違うでしょう?」
どうやらコヤンスカヤはAチームについて知りたいらしい。このあと、Aチームの7人に対するコフィンの解凍と治療が行われることになっているが、何か彼らに用があるのだろうか。
なんにせよ、唯斗には彼女の期待に応えられない。
「…悪いな。俺はあんたが言った通りの経歴なもんで、人付き合いなんてしてこなかった。時計塔にも協会にも干された身だ、あの新所長同様、魔術師たちは俺を毛嫌いしてるし、こっちも同じこと。だから生粋の魔術師であるAチームとは、なんら個人的な関係性を築かなかった」
「……なるほど。片や一般人、片やコミュ障と。ではカルデアについてもそうだと?」
「あぁ。そもそも俺は、あの日予備員に配置転換されたくらいには除け者だった」
「…そうですか。あなたも運が良いのですね?では最後にもう一つ。あなたが契約したサーヴァントには、異世界のアーサー・ペンドラゴンがいたそうですね。なぜ異世界の騎士王がわざわざサーヴァント召喚に応じたのです?」
最後の質問にも、唯斗はため息交じりに答える。
「知らない。武器の出自は気にしないからな」
「…分かりました。それではここまでにしておきましょう。その悪運の強さに感謝することです。それでは☆」
パチンとウインクをして、コヤンスカヤは部屋をヒール音を響かせながら出て行った。扉が閉まったところで、唯斗は息をつく。
本当は、Aチームでも個人的な情報を知っている人物はいたし、何よりアーサーのことは完全に嘘をついた。
だがそれも、グランドオーダーで唯斗が人間的な成長をしていなければ真実であっただろう内容だ。
それにしても、と唯斗はため息をつく。
「…昔の自分演じるの、くそ恥ずかしいな」