始まりの惨劇−4


翌日、唯斗の査問が始まった。
尋問室に呼び出された唯斗は、兵士の監視のもと、部屋に入る。

中にはテーブルがあり、対面にゴルドルフ、背後には言峰が立っており、他にも書記官が何人も控えていた。膨大な資料を見て、これから始まる尋問が数時間にわたるであろうことを察する。


「かけたまえ」


無言で唯斗は椅子に座る。ここからは、唯斗の演技力が試される。といっても、別の人物を演じるというより、自分から人間性を削ぎ落とすことに徹するのだ。


「雨宮・グロスヴァレ・唯斗。かの名門グロスヴァレ家と雨宮家の血を引きながら、父親の雨宮・グロスヴァレ・バシルが行った妻の死者蘇生術式によって瀕死の重体を負った禁忌の子。時計塔からも魔術協会からも疎まれた存在。まさかカルデアで人理を救うとは…なんと皮肉なことかと思わんかね」

「それは査問事項か?それなら回答する」

「フン、気持ち悪い。では査問に入る」


ゴルドルフは鼻を鳴らして、査問を開始した。


「まず契約サーヴァントは…抑止力の守護者エミヤ、ブリテン王アーサー・ペンドラゴン、処刑人ムッシュ・ド・パリのシャルル=アンリ・サンソン、ケルト神話フィン物語群の槍兵ディルムッド・オディナ、さらにウルク初期王朝の王ギルガメッシュ、中東最大の弓兵アーラシュ・カマンガー、イーリアスの英雄アキレウス、エジプト新王国第19王朝のファラオであるオジマンディアス、円卓の騎士ガウェイン、同じくアーサー王伝説の宮廷魔術師マーリン、そして日本の戦国武将である森長可の11騎か。まったく、不出来なフィクション小説でもあるまいし」

「……」

「…それで?これだけのサーヴァントを連れ、名門の嫡子である知識力と魔術の素養を持ちながら、報告書では所長および所長代行の指示に従うのみだったとあるが、間違いないかね」

「あぁ。俺は魔術協会にも時計塔にも居場所はなく、家族親類いずれも頼りがない。世界がどうなろうとどうでもよかった。だから指示に従う以外のことはしなかったし、能動的に何かを行うこともしなかった。それ以上でも以下でもない」

「これだけの戦力があれば、現在の世界を滅ぼすことすら可能だろう。その意図もなかったと?」


最初からかなり踏み込んだ質問だが、唯斗は動じることはない。


「世界に殺されるならそれはそれで問題ない。俺は俺の命に固執しない」

「たとえ魔術協会に死ねと言われても従うというわけかね」

「死ぬ方が楽であればそうする。生きる方が楽であれば生きる」

「…、人理修復は楽な方だったと?」

「自ら死ぬ理由もないし、所長代行の指示を拒否する理由もなかった」


ゴルドルフは引いたように唯斗を見てため息をついた。資料をおざなりにテーブルに放ると、席を立つ。


「グランドオーダーの細かい質問は査問官が行う。まぁ、機械の自動応答を数時間聞かされるこちらの方が苦行だがね」


ゴルドルフは後ろのよりフカフカとした上等な椅子に移り、別の資料に目を通し始めた。
そこからは、査問官による第一特異点から亜種特異点までのすべての確認が行われたが、ゴルドルフの言葉はまさに言い得て妙だっただろう。

唯斗は機械的に回答を続け、一貫して、ロマニやダ・ヴィンチの指示に従っていただけの予備員であったという態度を貫いた。
査問官たちすら引いたようにし始めたあたりですべての質問が終わる。

すると、黙って聞いていた言峰が口を開いた。


「私からはアーサー王について。異世界のアーサー王であるとのことだが、その宝具は聖剣で間違いないかね」

「本人とカルデアの計測は、アーサー王の宝具がエクスカリバーであるという認識で一致している」

「なぜ異世界のアーサー王がこの世界の召喚に応じたのかね?聖遺物があったわけでもないにも関わらず」

「ロマニ・アーキマンの推測では、特異点Fでこの世界のオルタ化したアーサー王と会敵したことで縁が発生し、召喚に成功したとのことだ。アーサー王がなぜ召喚に応じたのかは知らない。興味がなかったからな。戦いで使えるならそれ以外の情報は不要だ」

「…なるほど。私からは以上だ」


その言峰の質問を最後に、唯斗の査問は終わった。過去の出来事がきっかけで心をなくした予備員のマスター、という体裁は通じたようだ。
理由はどうあれ、この手のタイプの魔術師は多くいることから、唯斗の態度は彼らには不自然ではないだろう。

ようやく解放された頃には、8時間が経過していた。


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