星間都市山脈オリュンポスII−4


いったんディルムッドを下がらせて、再び探査メンバーだけで市内を移動する。時折、正規兵や兵器を倒しながら通りを走っていると、人工知能の金時が良くない事態を告げた。


『シット!悪い、目的の座標を見失っちまった!こんなことは構造上起こらねぇはずなんだが!』

「ふむ。もう少し詳しい話が必要だが、ゼウスの耳がある以上は難しいな。念話の術式などではどうかね?」


ホームズは走りながらアデーレに打診する。アデーレは「一度だけなら」という前置きで、念話術式を起動した。


「聡きヘルメスの加護よ、ここに!」


伝令の神ヘルメスの力による念話術式だ。これにより、マスターとサーヴァントの間で行われるような念話が人間同士、そして複数人の間で可能になる。


(それでは説明します。詳細な解説は後に回しますが、破神術式・冠位英霊指定召喚…通称・大召喚陣の完成に必要な座標は、一種の魔力のゆがみを利用したものです。本来、空間に結びついているので座標さえ特定できれば見失うことはないのですが…)

(それを見失ってしまったと)


アデーレの説明に、ホームズも表情を難しくする。唯斗は、さすがにグランドの英霊を呼び出す術式など知っているわけがなかったが、なんとなく理屈は理解できる。


(召喚術っていうのは、俺の刻印もそうだけど、点と点をワープさせて接続するものだ。たとえば、東京とロンドンが地図上で20センチ離れていたとして、地図を折りたたんでその距離を5センチくらいに短縮するようなイメージだな。この短縮に魔力を使用しているし、大召喚陣の仕組みもその短縮するための起点を設置する作業なんだと思う。通常、召喚術では、短縮する起点となる場所は限られている。霊脈が一番分かりやすい例だな。さっきの喩えで言えば、東京とロンドンでは短縮できるけど、大阪とロンドンではできないみたいな感じ。東京も大阪も、その場所自体は固定されてるだろ)

(うわめっちゃ分かりやすい…つまり、東京って街は消えるものではないけど、一時的にどこに東京があるのか分からなくなってるってことか)

(そういうこと)


立香は唯斗の説明ですぐ理解した。
唯斗の左手の魔術刻印は、自分のいる場所を強制的にその起点とすることができる、という代物だ。さすがに英霊召喚レベルの魔力移動はできないが、質量の小さい物体であればどこからでも、そしてどこへでも自分と接続して転移できるということである。
マシュの盾が、唯斗の刻印の理論で英霊を召喚する起点だ。


(例示された名前は私には分かりませんが、唯斗さんの説明通りだと思います。本来消失するものではありません)

(ってことは、その魔術的座標と現実空間の座標がずれてるんだろ。それだけ、現実空間を歪ませている何かがあるってことだ)

(なるほど。ことは理解した。であれば、その現実空間を歪ませているポイントまで行かなければ、実際の座標が判別できないということだ)


ホームズの言うとおり、これはつまり、虱潰しにこの辺りを捜索して、そのゆがみを手当たり次第に探していくしかないということだ。
立香も方向性を理解して頷く。


(じゃあ手分けした方がいいね)

(同意するよ。神霊カイニス、皇帝カリギュラは単独で捜索してくれたまえ。ミスター雨宮とアーサー王は一緒に離れて行動して欲しい。ミズ宮本は我々の護衛を頼む)

(カイニスさん、カリギュラ、唯斗さんたちには人工知能の端末をお渡しします。人工知能同士は繋がっているので、誰かが見つければ即座に共有されます)


これで行動方針は決まった。この地区一帯を分かれて捜索し、二つ目の術式設置ポイントを発見する。唯斗はアーサーと二人で走り回ることになった。
アデーレから人工知能の搭載された小型端末のブレスレットを受け取り左手に到着すると、唯斗はアーサーを見上げる。


「…よし、行くぞ」

「あぁ」


カイニス、カリギュラが跳躍してビル街に消えていき、唯斗とアーサーも2騎とは別の方向に跳躍して、ビルの屋上伝いに走り出す。地上はオリュンポス兵が徘徊しているためだ。

夜であっても眩いネオンとビル街の明かりは、東京の夜景をも凌ぐ壮観なものだ。アーサーにたまに手を取ってもらいながら屋上を伝って走りつつ、この明かり一つ一つに暮らす1000万の市民の生活を想像するのは、今はやめておくことにした。


302/359
prev next
back
表紙へ戻る