星間都市山脈オリュンポスII−5
20階建てほどのビルの屋上に着地し、周囲の低層ビルの座標を調べているときだった。
突然、アーサーはぴくりとして、立香たちが担当している区画を見つめる。
「アーサー?」
「…この気配は」
その声音は固く、警戒が滲んでいる。アフロディーテかと思ったが、デメテルのときの威圧感を感じられないため、機神ではない。
「…マスター、ビーストだ」
「な…っ、待て、なんでこんなところに」
なんと、アーサーが感知した気配はビーストのものだという。
現状、カルデアにとっての敵はオリュンポスの神々だけが想定されていたところに、まさかビーストが出てくるとは思わなかった。まったくの想定外であり、極めて危機的な状況だ。こんなところでビーストまで相手にしていられない。
「てか、いったいどうしてビーストが…」
何より、そもそもどうしてビーストがオリュンポスにいるのだろう。
これまでカルデアが出会ったビーストは、Iのゲーティア、IIのティアマト、III/Rのキアラ、III/Lのカーマ、IVのキャスパリーグことフォウである。V以降のビーストはまだその片鱗も見せていなかった。
いや待て、と唯斗は思い至る。1騎だけ、あり得る人物がいた。
なぜか異聞帯という異なる世界を渡り歩くことができ、異星の神の使徒ではないアルターエゴとしてこれまで振る舞ってきた、どの勢力にも属していない謎のサーヴァント。
「…コヤンスカヤか」
「その通りだよ、マスター。すまない、ロシアでその可能性に思い至ってはいたのだけれど…」
「言うべきときを見計らってた?」
「……いや、言い忘れていた。シンプルに」
「…………後で締める」
アーサーのことだから意図があってのことだろうと思えば、こんな重要なことを言い忘れていたらしい。というより、言った気になっていたのかもしれない。唯斗が自分で気づくには十分な情報が、これまでの異聞帯ですでに出てきていたため、アーサーも唯斗がすでに理解しているという気になっていたのだろう。
とりあえず今は緊急事態だ。恐らく、立香たちの方でもコヤンスカヤをビーストだと看破して、ついにその姿を露わにしたといったところか。
大方、空間を歪ませているポイントもコヤンスカヤの存在そのものか。
二人はすぐに立香たちの方へと走り出す。ビルの上を飛び回りながら、唯斗は隣を跳躍するアーサーに尋ねる。
「ナンバリングは分かるか?」
「どうだろう、そもそも彼女は成体ではない。態度から考えれば『愛玩』の権能を持っているようだけれど、それぞれの権能が特定のナンバリングを当てられているわけではないんだ。それに、ビーストとしての力を維持しながらサーヴァントとなったキアラやカーマと違い、ビーストIVはキャスパリーグがその権能を放棄して空席になっている」
「え、空席に別のビーストが現れるなんてこともあるのか」
「可能性はゼロではないんだ。ビーストというのはあくまで人類が倒すべき悪、人類がいる限り必ず発生する。今はとりわけ、人理が漂白されて抑止力も揺らいでいるところに異聞帯が林立している。空白が多ければ多いほど、融通が利いてしまうんだ」
「最悪だな…」
何度も現れるようでは、もはやキリがないということになる。ナンバリングも不明であり、成体になったあかつきに初めて番号が振られるのだろう。
「…まぁ、倒すことに変わりないからいいか」
「うん…そうなんだけれどね……」
アーサーは苦笑して返す。唯斗は再びビルの屋上を蹴って、次第に肌を刺すような感覚に気づく。これがビーストの圧だろう。
確かに、過去ゲーティアやティアマトと会敵したときに近いような、ピリピリとする感覚だ。だが、その2体に比べればまだそれほどのものではない。デメテルの方が威圧感があった。