星間都市山脈オリュンポスII−6
「…見えた、あの影だな」
「そのようだ」
やがて、前方の大通りに黒い影が満ちているのが見えた。概ね50メートル四方ほどの空間が黒い砂嵐のようなものに包まれている。恐らくあの中にコヤンスカヤと立香たちがいるのだろう。
魔術で透視を行えば、視界に立香の魔力が確認できた。唯斗が突っ込むべき場所は分かった。コヤンスカヤについては、まったく実体が掴めない。そこにいる、ということだけは分かるが、輪郭すら見えなかった。
「アーサー、輪郭分かるか」
「いや。幼生だからだろう、まだビーストとしての実体を持っていないんだ」
「なるほどな。攻撃は通りそうか?」
「あぁ。僕は直接コヤンスカヤにここから突っ込んで攻撃を仕掛ける、君は藤丸君たちに合流してくれ」
「言われなくてもそうする。倒しきれなくていい、間違っても機神と挟み撃ちされるようなことにはなりたくないからな」
「了解」
アーサーは聖剣を出現させると、魔力を放出して黄金の輝きを剣に纏わせる。そして、一息に飛び出して、黒い砂嵐の中に突入した。
唯斗も少し遅れてジャンプし、黒い影の中に飛び込む。
中に入ったからといって何か感じたものはなかったが、魔力の砂嵐の中に入るのは居心地悪い。
「立香!」
「唯斗!」
着地すると、すぐ近くに立香たちが見えた。1メートルでも離れれば姿を見失ってしまいそうだ。
すでにアーサーの攻撃が入ったのか、コヤンスカヤとおぼしき鋭い獣の瞳がアーサーに向けて光線を放っていた。
アーサーは軽々と避けると、再び聖剣で斬り掛かる。さすがにエクスカリバーの攻撃は痛むようで、非常に煩わしそうにしていた。
「よし、じゃあ私も畳みかける!」
アーサーに気を取られているのを見て、武蔵は二刀を構えて立香の傍から飛び出した。マシュとホームズはすでにかなり疲弊している。
そして、武蔵がコヤンスカヤに接近すると、コヤンスカヤは爆風を噴き出して武蔵を吹き飛ばした。
武蔵はニヤリとして華麗に着地する。
そこに、カイニスが直上から急降下してくるなり、コヤンスカヤの尾に槍を突き刺した。アーサーだけでなく、武蔵自身も陽動となったのだ。
カイニスはそれによってコヤンスカヤの尾を正確に捉える。
その攻撃を受けて、突然、黒い魔力の砂嵐は風とともにかき消えた。
辺りには元の夜の市街地が戻り、泰然と立つコヤンスカヤの瞳が黄金に光っていた。
マシュはそれを見て愕然とする。
「敵サーヴァント、健在です!霊基にどのような損傷も見られません!」
ゲーティアやティアマト、キアラがそうであったように、ビーストというのは普通の戦闘で倒せる相手ではない。その権能に対して特別な対抗手段が必要だ。
アーサーは唯斗の正面に着地して剣を構えるが、これ以上戦い続けるつもりもなさそうだ。それはあちらも同じ。
「…顔見せとしては今ので十分。それとも、果てるまで戦うのが本望か?」
「どうやら風向きが変わったようだ。我々の総力はお眼鏡に叶ったかな?ミズ・コヤンスカヤ」
ホームズがいつも通り悠然として問いかけると、コヤンスカヤはいつもの瞳に戻り、あくどい笑みを浮かべる。
「ええ。弱すぎず強すぎず。正しくちょうどいい案配でしたわ。私も思いきり伸びができて肩の凝りが取れたところですし…お互い、ここまでにして元の仕事に戻るというのはどうでしょう?気持ちのいいマッサージをしてくれたお礼に、オリュンポス側にはあなたたちと出会ったことは伏せて差し上げます」
「それは助かる。一分一秒を争う状況だからね」
「商談成立ですね。それでは。この異聞帯でのさらなる成長を期待していますわ」
そう言い残して、コヤンスカヤは忽然と姿を消した。思えば、この唐突な出現や消失こそ、ビーストの権能の一つである単独顕現だったのだろう。
コヤンスカヤの消失と同時に、アデーレはこの場所にあった二つ目のポイントで術式を設置し終えていた。これにより、残るのはあと一つとなる。