星間都市山脈オリュンポスII−8


さらに一際強い霊子波がアフロディーテから放たれた。あまりに強い魔力の波長によって、空気中の分子が発光して光となって霊子が目に見えるようになっている。

カルデアだけでなく、東部一帯の市民にもこの精神汚染は行われているようで、街中から悲鳴が聞こえてきていた。
すでに家族や友人同士で殺し合っているのだろう、あらゆる建物から市民が殺し合う騒音が聞こえてきている。避難所となっている分神殿では、市民の殺し合いによって血が洪水のように階段を伝って通りに流れていた。

そんな中、ついに武蔵がマシュに刀で切りつけた。


「武蔵…さん!?とうして、攻撃を…!」

「チッ、今ので仕留めきれなかったか。首を落としても再生するとか、ふざけた真似を。不死身のなまくら、たたき折ってくれる!」

「もしかして…下総の記憶…!?」


立香は武蔵の言葉に、武蔵がマシュを過去の敵と混同している可能性を指摘する。精神汚染による記憶の混濁によって、目の前の相手が認識できず、記憶に上書きされてしまっているのだ。


「…君は銃の名手だと思ったがね、モラン大佐。時代がかった獲物を使うものだ。ならば私はバリツで相手しよう!次は君がライエンバッハへ落ちる番だ!」

「な、ホームズさんまで…!」


ホームズもおもむろにカリギュラに蹴りを入れる。普段ののらりくらりとした態度からは想像できないほど俊敏な動きで、受け止めたカリギュラは地面を数メートル滑る。

カイニスは武蔵の剣を受け止め、カリギュラはホームズの体術を相手する。マシュは二人の攻撃が時折立香に向かうのを防いでいる。
誰もが精神攻撃によってふらふらとしている状態だが、唯斗はアーサーが剣を構えたのを見て、だめか、と拳を握りしめる。


「…い、けない…モードレッド…その先は…ブリテンも、円卓も、何も、残らない…滅びの…」

「アーサー…」

「だめだ、愛歌…綾香は…君の……誰も、そんなことは…望んで…」


アーサーの翡翠の瞳は虚ろで、視線が彷徨っている。剣を持つ手も震えており、必死に抗っているようにも見えた。
しかし記憶はすでにかなり混濁しており、生前の記憶や、恐らく過去の現界の記憶も混ざっているようだ。


「く…っ、アーサー…!」


唯斗も頭蓋骨を割るような痛みに耐えてアーサーに呼びかけたが、それによってアーサーはこちらに意識を向ける。瞳が唯斗を捉えると、アーサーは剣をよりしっかりと構えた。
こちらに向けられるのは殺気。アーサーが唯斗に殺気を向けるなど、当然、これが初めてのことだ。

そして、アーサーは目にも留まらぬ速さで唯斗のすぐ目の前に移動すると、その剣を振りかざした。


「ッ…!!」


結界を展開しようとした唯斗だったが、その前に、剣が止まる。
唯斗の首筋を正確に捉えていたが、剣はカタカタと揺れていて、アーサーは柄を左手で握りながら、右手で刀身を抑えていた。一人で、切ろうとする自分を自分で制止しているのだ。アーサーの中でも、精神が分かれている。まだ、唯斗を認識して、唯斗を守ろうとするアーサーの意志が、残っている。

殺そうとする左手、守ろうとする右手。すでにアーサーの右手の甲冑は罅が入っており、このままでは右手を切断することになる。もう一度、強い波が放たれれば、間違いなくアーサーの左手は、自身の右手ともども唯斗の首を刎ねるだろう。


「…逃げ、るんだ…ころ、したく、ない…っ!」


だが、震える声で絞り出すように言ったアーサーに、唯斗は覚悟を決める。相手は神の精神攻撃だ、アーサーが負けて唯斗を殺してしまう可能性は十分にある。しかし、すでにカイニスもマシュもカリギュラも、武蔵とホームズを止めるのに精一杯だ。


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