星間都市山脈オリュンポスII−13


(オレ)か?そりゃあ、鍛冶神の工房に鍛冶屋がいるのは当然ってモンだろう」


赤い長手甲はどこかエミヤを連想させ、その赤い髪型も髪を下ろしたエミヤにどこか似ているような気がする。


「っ、千子村正!?」


立香が驚愕のあまり声を上げた。確かに、下総に立香が睡眠レイシフトをしていたときに、通信越しにその姿を見たような覚えがある。
日本刀の流派において最も有名な千子派の刀工であり、家康や秀吉などの天下人だけでなく、西郷隆盛や伊藤博文など明治時代の偉人たちにも愛された、日本刀の代名詞である。どの代の作品かにもよるが、主立ったものは市場流通せず即座に重要文化財や国宝に指定されうる代物だ。

そして同時に、カルデアにとっては敵側の英霊だ。アルターエゴとして、異星の神の使徒の1騎であり、アトランティスでは多くの英霊を消失させていた。


「なんの因果か人理の敵ときた。まぁ、おかげで本物の鍛冶神に出会えたわけだが…その鍛冶神はなんと絡繰ときた!確かにジジイほど年季の入った神様だがな!」

『ジジイにジジイ呼ばわりされるほど陰鬱なものはないな。鍛冶の技術と口の悪さは比例しているのかね?』

「おっと。気に障ったンなら謝るよ。後でそのつるっ禿げた頭、磨いてやろうか?」

『機神に禿という概念はない』


日本最大の刀工とギリシア神話の鍛冶神が軽口を叩いている状況に、久しぶりに唯斗は意識を飛ばしそうになるような倒錯感を味わった。カルデアの旅では昔からこんなことは多くあったが、ここまで来るといったいカルデアが守る人理とはなんなのかという疑問すら沸いてくる。

そこで、武蔵が剣は抜かないまでも、ある程度緊張感を持った声で問いかけた。


「私の記憶では、あなたはセイバークラスで現界していた。今度はアルターエゴで異星の神の使徒とは、忙しいのね、おじいちゃま。で、ここで私たちが出会ったのは奇遇?それとも…待ち構えていたのかしら」

「…さァて。どうしたもんか…ゼウスには、見つけ次第真っ二つにして差し出せとは言われているがな。この鍛冶神から請け負った仕事を放り出すわけにもいかねェ。今この瞬間、儂はただの鍛冶屋だ」


どうやら村正は、敵としてカルデアを待っていたのではなく、むしろ大召喚器の鋳造をヘファイストスから依頼されており、一緒にその制作に取り組んでいたのだそうだ。
つまり、敵対はしないが味方でもない、という立ち位置で、中立となる。

「ンだよつまんねーな」とカイニスは呆れた様子で霊体化し、どこか適当な場所へ行ってしまった。
カルデア側はホッとしていたが、今度は武蔵が別の方向に声をかける。


「で、そこの御仁はいつまでそうしているつもり?」


村正だけでなくもう一人、この場にはこちらを窺っていた人物がいたようだ。全員の目線が向かった先、柱の陰から、豪勢な冠と金の竪琴を持った女性が現れる。


「こんにちは、皆さん。私はエウロペ。このオリュンポスを統べるゼウス神の巫女にして神妃。そして…破神同盟の協力者である者です」


今度こそ、驚きで誰もが言葉を失った。
ヘファイストスは分かる、アトランティスですでに存在が示唆されていた。村正も分かる、アルターエゴとして存在していることは知っていた。
しかしエウロペはゼウスの妃であり、このオリュンポスにおいても女神ヘラと同化した半神の巫女である。神そのものであるに等しいエウロペが、本当の協力者だったとは誰も思わなかった。

なぜエウロペが破神同盟に協力しているのか。それは彼女自身が明かしてくれた。

エウロペはもともと汎人類史の英霊としてアトランティスに現界し、ゼウスは異聞帯のヘラと同化させてオリュンポスの神として招き入れた。こうして、唯一オリュンピアマキアを知らない神格が軌道大神殿に座すこととなった。


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