星間都市山脈オリュンポスII−14
しかし、エウロペは「親」としての権能が極めて強い存在だ。それは、その名はヨーロッパの語源であり、ヨーロッパが古代から中世に切り替わる際に、多くの王家が彼女に連なる系譜として歴史を生み出していったからだ。
恐らく、ギリシア神話の中で最も、全世界が日常的にその名を用いている存在といえる。次点にアキレウスだろうか。
「親として、子をいつまでも大事にしたい、という思いは分かります…それでも…1万年もの間、人類を鳥かごに閉じ込め…その未来を奪う…こんなことは、許されてはならないのです…!かつてデメテル様も同じ事を叫ばれ、ゼウス神に神核調整を施され、狂気に墜ちました」
「では、ゼウスは他の神を改造していると?」
「はい。オリュンピアマキアは、ゼウス神と他の4柱による戦いとされていますが…実際には、ゼウス神が他のすべての機神を制したのです」
ホームズの質問に、エウロペは表情を悲しげに歪ませて頷いた。
ゼウスは、デメテルを狂わせ、アフロディーテから愛の権能を奪い、ヘファイストスの頭脳ユニット以外を破壊して、ポセイドンとアルテミスを殲滅兵器に改造した。
それでもヘファイストスはプロメテウスと同化することで知能をゼウスの管理外に置くことができたため、こうしてエウロペと密かに繋がり、破神同盟への助力を行っている。
とりあえず、エウロペとヘファイストスが協力者であること、村正は中立の立場であることも確認できたため、ペペロンチーノは地上に一足先に戻り、カルデアは大召喚器の完成まで少し待つことにした。
最後にエウロペが魔力を奉じて完成するものだという。
それまでの間、エウロペはなんと、夕食を自ら振る舞うことを提案した。村正が英霊となっても食事の習慣を続けていたため、食材や調理場はあるそうで、エウロペはヘラの権能である家庭の加護を使って食事に加護をかけてくれるという。
「ではプロメテウス=ヘファイストス、調理場を借りますね」
「私たちも手伝います」
「俺も手伝います」
マシュ、立香がすぐに手伝いを申し出ると、アデーレも続く。
「私たちも、及ばずながらお許しいただけるでしょうか」
「もちろん」
ニコリとしたエウロペに、アデーレもホッとしたようにする。
エウロペは村正が和食に必要な調味料も用意していると聞いて和食に興味を示したが、村正は「それは今度な」とエウロペ自身の料理の方がいいだろうと促す。
立香とマシュがエウロペとともに調理場へ向かうのを見て、アデーレはどこか遠くを見るようにぼう、とした。
唯斗は気になってアデーレに声をかける。
「アデーレ、どうかしたか」
「あ…いえ、すみません。なんだか、あなたたちが来てから、楽しい、という感情を思い出します」
「思い出す?」
「はい。まるで、1万年前の日々のよう。何が起こるか分からない、色の決まっていない日々」
アデーレの言葉に、マカリオスも頷く。
「…昨日と違う今日、今日と違う明日。実際に破神を成すなんて思いもしなかったし、頻繁に厨房に立って微笑む姉さんを見ることになるとは思わなかった。全部、あんたたちが来てからだ」
「だから、ありがとう。あのとき、立香さんたちを見捨てなくて良かった」
「…こちらこそ礼を言う、立香たちを助けてくれてありがとう」
アデーレもマカリオスも、この戦いの先にあるのは異聞帯という世界の終わりだと理解してる。彼らの望む「明日」は、その先に続かない。それでも、1万年の停滞を良しとしなかった。
それは決して、死ぬために生きているのではない。僅かな瞬間でも、「生きる」ために生きているのだ。
「さあ、お手伝いしてくれる子は来て頂戴な」
「はい。マカリオス、」
「…分かった、俺も手伝うよ」
双子たちも立香たちの方へと向かう。唯斗も手伝うべきか、と思ったが、そこにホームズが唯斗を呼び止める。