星間都市山脈オリュンポスII−15
「ああ、ミスター雨宮は残ってくれるかね。プロメテウス=ヘファイストス殿と情報交換をしたい」
「分かった。アーサー、俺の代わりに行ってきてくれ。あの太母エウロペの手伝いだ、頼んだぞ」
「分かったよ」
情報収集ならホームズ一人でもいいのでは、と思ったが、手伝いもそこまで人数が多くなる必要もない。アーサーだけ行かせて、唯斗はホームズとともにヘファイストスの炉心の前で腰を下ろした。
『さて、汎人類史の賢者は私なぞに何を聞く?』
「情報のすり合わせをお願いしたい。まずアトランティス大陸についてだが、これは大西洋に存在していたものの、第二のマキアによって滅ぼされかけたところ、海中の別次元に偽装隠蔽し、そこにオリュンポスを築いたという理解でいいだろうか。本来、汎人類史ではそこでアトランティスもアリスィアも失って、流転したギリシアの地で現行の神話体系となった。しかし異聞帯では偽装空間でオリュンポスが維持され、第三のマキアと第四のマキアを経て今に至る」
第一のティタノマキアでクロノスから王権を簒奪したゼウス神は、十二神という機神とその派生神を引き連れてアトランティス大陸に降り立った。その後、第二のレウコスマキアによって滅ぼされかけたとき、異聞帯では偽装空間に大陸を隠してオリュンポスを築いた。
汎人類史では、機体を失い人の神としてギリシアの地に移り、現行の神話体系となった。
第三のギガントマキアは、汎人類史であれば人型であったために長期化してしまったが、異聞帯では機神として維持していたため瞬時に勝利。
そして第四のオリュンピアマキアで神の争いが起こり、ゼウスが勝利した。
『アトランティス大陸、そして各マキアについても理解は正しい』
「では、本来は第二のマキアであなたたちは機体を失うはずだった」
『その通り。ソラより降りし「白き滅び」との戦い。汎人類史では、人も神も先史文明も滅び去ったというが…我らは勝った。そしてアリスィア、君たちの言う機神本体を維持した』
唯斗はヘファイストスが「先史文明」と言ったため、汎人類史の神話とのずれに気づいた。
「つまり、アトランティスの文明が汎人類史で滅びたタイミングも、レウコスマキアってことか。なら、いわゆる大洪水にあたるものは、汎人類史では2度あったってことだな。最初は白き滅びによるアトランティス大陸の消滅、そして二度目はゼウスによる人類の間引き…いわゆる『洪水伝説』にあたる、ユーラシア西部全域で見られる共通の事象」
『そういうことになるのだろう。洪水伝説については、機会があればそちらの我々にでも聞くといい』
そんな機会などそうそうないだろう。ギリギリ、アルテミスやアポロンに聞けるかどうかといったところだ。あるいは、古さで言えば十二神より古いエウリュアレやステンノも知っているかもしれない。
プロメテウスの子であるデウカリオンであり、旧約聖書におけるノアであり、そしてシュメール神話におけるナピュシテム、あるいはジウスドラの伝説である。
『それにしてもレウコスマキアか。懐かしい。あれは実に苛烈な戦いだった。遊星より降りし「白き滅び」は、すべてを破壊せんとした。セファールという侵略知性体だった』
「それは、異星の神と似たようなものでしょうか」
『いや。異星の神がこの星に根ざした空想樹は我々の理解の範疇だ。だが白き滅びはまったく違う。当時のすべての知性体に理解できない構造だった。白き滅びはカルデアには関係のないものだ、考慮せずとも良い。あれは我々先史文明を滅ぼすために落ちてきたのだ』
唯斗はセファールと聞いて、何か引っかかるものがあった。どこかで聞いたことがある。
一方、ヘファイストスは白き滅びとの戦いについてもう少し詳しく説明した。