星間都市山脈オリュンポスII−16
『すべてが滅ぼされ、神ですら滅びようとしたとき。ゼウスは、全能合神を成功させた。我らはカオスに近づくほど権能が増す、一世代前のティターン型の神々の方が強壮であった。しかしゼウスは別格だ』
ゼウスにはマザーコンピューター、ホストサーバーのような権能がある。それが万能の仕組みだ。あらゆる権能を搭載することが出来るスペック、ということである。
そこで、唯斗はようやく思い出した。
「…思い出した。セファールって、あのセファールの白い巨人のことか」
「ああ、確かアルジェリアの…」
「そう。タッシリ=ナジェールの壁画群のことだな」
アルジェリア南東部、世界遺産に登録されているタッシリ=ナジェールの壁画群は、世界最大の壁画群がある場所だ。ここには、一時期オカルト界隈で話題になった「セファールの白い巨人」という壁画がある。
他の壁画においては、人や動物はそれっぽく普通に描かれているにも関わらず、ひとつだけ、異様な白く大きな人型のものが描かれている箇所があるのだ。
フランス領であったこともあり、とりわけフランスでは有名なものだ。
le dieu blanc du Sefarという名で知られている。セファールはこの地域の古いフランス語名だ。
「まさかオカルトじゃなく本当に外宇宙の侵略者だったのか…てことは、実在が確認できているメソポタミアの神も、この滅びを耐えたってことか」
『勝利して生き延びた、というものではあるまいよ。汎人類史の我々がアリスィアを失ってギリシアの地に逃げ延びたように、メソポタミアの神々もインドの神々も、命からがら生き延びたのではないか。勝利した我らには、その記録はないが』
「この異聞帯においては、他の神話体系はどうなっているのです?」
『正直不明瞭だ。もとより我々は、レウコスマキアこそ耐えたが無傷ではなかった。滅亡しかけたアトランティスをこの空間にオリュンポスとして再利用し、ゼウスから再度パージした神々によって運営していた。それでようやく、1000万のオリュンポス市民を賄うことができたのだ。外界にあったユーラシアの…我らよりも古くからこの星にいた神々がどうしているかは、実のところ知らぬ』
「南米の神も、もとは地球の神性じゃなかったと汎人類史のメソポタミアの神…イシュタルから聞いた。このことも、異聞帯のあなたでは定かではないか」
『あぁ。南米の神も、我らと同じく外来神性だとは知っている。しかし彼らがいつ地表に降り立ったのか、レウコスマキア時点で存在したのか、あるいはセファールそのものと関係があったのか…いずれも異聞帯の我らでは知るよしもない。もとより、すべてが滅びる定めだったのだから』
話しているうちに、夕食の準備ができつつあるのか、料理の並んだテーブルが離れたところに設置され始めた。椅子も置かれて大きな食卓になっている。
そろそろ唯斗も手伝うべきだろうが、もう少し話が聞きたかったためヘファイストスに尋ねる。
「そもそも、どうして汎人類史で、ギリシア神話やメソポタミア神話、インド神話の神々は生き延びたんだろうな。それほどまでに圧倒的な力を前に、誰がセファールを退けたんだ?それとも、セファールは自ら去ったのか、活動限界があったのか…」
「さすがに推測の域を出る理論は組み立てられないね。ただ、その場合はガイアの抑止力が働いたはずだ。この星の生きようとする力が、内海より外敵を討つ権能を地表に与える。そういう理論のはずだが」
『肯定する。恐らくはこの星そのものの自動防衛機能が作用してセファールを撃退したのだと考えている。おかげで、辛くも汎人類史の我々やインド、メソポタミアの神性も命を長らえたのだろう』
「ガイアの力…星の内海…」