星間都市山脈オリュンポスII−17
ここでのガイアはギリシア神話のガイアではなく、地球という星の意志のことだ。人類が生きようとする抑止力はアラヤという。
もともと、エクスカリバーが惑星外からの敵意に対して用いられるものだとはアーサー自身から聞いていた。星の内海に暮らすマーリンがアーサーに与えた剣ということを考えても、エクスカリバーに連なる力がセファールを撃退した、ということだろうか。
『恐らく、その答えはブリテン異聞帯で得られるやもしれぬな。すでに滅びの定めにある異聞帯、とは聞いているが…かの異聞帯にもセファールの滅びが関与している可能性がある。人類史において、最も星の内海に近しい場所なのは異聞帯でも同じだ』
大西洋異聞帯が汎人類史と分岐したのは、1万4000年前のレウコスマキアにおいてセファールに勝利したからだ。
ヘファイストスの言うことが確かなら、ブリテン異聞帯も1万4000年前の出来事が関わっているかもしれない。
「実に気になる話ではあるが、いずれ消える可能性があるのは我々も観測している。ブリテン異聞帯のことはこの際放っておこう…さて、ゼウスとの戦いに話を戻そう。この召喚術について、リソースはどうするつもりですかな?」
「え、あの無限結晶山脈とやらじゃないのか。あの山脈に繋がってる神造霊脈に沿って、大召喚術式の設置ポイントが設定されているんだと思ったんだけど」
『ほう、なかなか鋭いな、少年。その通り。無限結晶山脈に接続する神の霊脈、これは私がゼウスの指示で不承不承作り上げたものだ。この神造霊脈には穴があり、それが召喚陣作成にあたって重要な節となる場所だ』
「なるほど、敵の力で敵を倒す、というわけですね」
唯斗が立香たちに説明した通り、通常、召喚とは起点と終点とを接続して物質などの移転を行う術式だ。主に、その起点は霊脈であることが多く、唯斗の左手の刻印はその場を強制的に起点とするものだ。
もちろん霊脈には及ばないため、英霊召喚などは不可能である。
オリュンポスでは、この霊脈が神によって徹底的に管理されており、常時召喚ができない。しかし、ヘファイストスが作り上げた霊脈であるからこそ、その抜け穴を使って術式構築が可能となった。
一通り理解が及んだところに、エウロペから呼びかけられた。
「唯斗さん、夕食の準備ができていますよ。お早くお食べになって」
「あ、すんません」
つい謝ってすぐ立ち上がる。それを見て、先にテーブルについていた立香がクスクスと笑った。
「母親に注意されてるみたい」
「確かに〜!」
武蔵もニヨニヨとしている。唯斗は気恥ずかしく思いながらも、アーサーの隣の席に座った。
「…つーか、母親に注意されたことはおろか、そもそも話したことだって…あの特異点でしかなかったんだけど」
「でも、あのときお母さんに出会えたから、イメージはついたでしょ?」
立香は優しく笑って言った。それに言葉を詰まらせ、唯斗は少しぶすっとしながらも頷いた。
悔しいが、立香の言うとおり、母親とこんな会話などしたわけがない唯斗であっても、あの特異点で母親の姿を見ていたからこそ、今の会話が容易に母と子のそれだと認識できてしまった。
自分がそういうコミュニケーションを取ることなどあり得なかったため、なんとなく恥ずかしい。
「まぁ、まぁ。ふふ、あなたのような息子がいたら、自慢したくなってしまいますね」
「っ、」
そして不覚にも、そう穏やかに笑ったエウロペに、あの特異点で一瞬だけ「母と息子」として話したときのことが思い出されて、涙腺が緩みそうになった。
誤魔化すように「どうも」とだけ言って水を飲む。
ヨーロッパの母たるエウロペと自分の母が似ている、なんて大それたことに思えたが、きっとそういうことではなく、子を思う母の姿というものは、普遍的にこういうものなのだろう。