星間都市山脈オリュンポスIII−4


「貴様、盾の娘。動いたな。では罰が必要だ!その大盾で自らの首を断て!さすればこの男の命は長らえさせてやろう」

「や、めろ、ディオスクロイ…ッ!」


それに対して、立香は呻きながらカストロを睨み付けた。その瞬間、カストロは目を見開く。


「ッ…!貴様、ヒトの子よ、それは……」


愕然とした様子のカストロは、立香の首を掴む手から力が抜けていく。


「それは、まさか、神を殺すモノか…?」

「兄様、それは…!」

「貴様か!デメテルとアフロディーテを殺した、呪わしくも忌まわしき、神を殺す兵器!貴様が弾丸か!汎人類史ィ…!!」


咄嗟にカストロは手を離して立香を解放する。これ以上触れていたくない、ということだろう。
どうやら、カストロは立香が怒りで漏出した微量な魔力からブラックバレルとの繋がりを感じ、立香自身が弾丸として魔力や運命力を射出していることに気づいたのだろう。
神を殺すモノとの縁に、カストロは慄いたのだ。

瞬時に唯斗は立香とカストロの間に結界を展開し、飛び出したマシュが立香を抱えて跳躍したのを確認してから、結界を消失させる。
同時に、準備ができていたアデーレとマカリオスが術式を展開した。


敵に死を(ハデス)!」

勇気の刃を(アテナ)!」


術式はぱっと見ではまったく理解できないほど高度なもので、カルデアの召喚ルームのものよりも数段格上のものだ。恐らく、神の力を借り受ける神代の魔術行使の類いだろう。

その術式はディオスクロイの頭上にも展開され、そしてそこから、ハデスの二叉矛とアテナの槍の形を模した光弾が次々と放たれ、ディオスクロイたちを直撃する。
悲鳴を上げた二人を包み込んだ爆煙が晴れると、血だらけになった双子神がボロボロになって蹲っていた。

ポルクスは、なんとか片手で体を支えて、アデーレを見つめる。


「……逆に問おう、同盟の女。なぜ、お前は己が弟を止めない?歩み道の先には何もないと分かっているだろうに。そこにあるのは死だけだ。そう、死だ!どうあってもお前たちを待つのは死しかない!」

「…私も、弟も信じているからです。停滞の永遠よりも、私たちは明日を見たい」


それを聞いて、カストロは盾ごと失った右肩から先を左手で押さえながら、マカリオスを見遣る。


「愚かな。魂の寄る辺(ハデス)なき今、再生なき死は終わりだというのに」

「ああ、知っているさ」

「それでも私は、」

「俺たちは…」

「「昨日と違う、明日が欲しい」」


ディオスクロイたちは消失の光に包まれ始める。霊核は、アデーレとマカリオスの術式によって見事に打ち砕かれていた。

カストロは憎しみをいまだに持ちながら、双子を見つめる。


「ならば挑み続けるがいい。せいぜい、絶望の待ち受ける明日を拓くがいい!それが、先へと続くことのない…ほんの僅かな一歩に過ぎぬと知りながら!」


ああそうか、と唯斗はディオスクロイたちの言葉に気づく。
彼らは確かに、人間を憎む気持ちが、異聞帯ではより一層強くなって先鋭化している。キリシュタリアに負けたという事実もそれに大いに拍車をかけているだろう。

それでもなお、彼らは、導きの神としての性質を完全に失ったわけではないのだ。先のない死という終わりへ突き進む人間にそれで良いのかと問いかけるのは、本来的に人間を守り導く神として生まれたからこそ、理解ができなかったからだ。

このディオスクロイが異聞帯の存在であり、汎人類史のディオスクロイとはまったく違うことは重々承知しているし、汎人類史の方はケイローンの門下生であったこともあってこんな性質ではないとも推測しているが、それでも、最後に唯斗は言葉をかける。


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