星間都市山脈オリュンポスIII−8
ひたすら待ち受ける兵士や兵器、幻獣を倒しながら進んでいくと、通信から立香たちがリンボと会敵したことが窺えた。
激しい戦闘であまり聞こえてこなかったが、どうやらペペロンチーノがインド異聞帯でのことを報復すべくリンボにトドメを刺したらしい。リンボが式神によって何度でも復活するのをその力によって打ち止め、リンボが甦られないようにした。
その後、立香たちは回廊を再び進み、ペペロンチーノは撤収。
30分ほどして、いよいよ立香たちとも合流し、ゼウスのいる大祭壇の手前、一際巨大な通路で一緒になった。
「…いよいよだが、準備はいいかね、諸君」
ホームズは一応全員に確認する。この先、どんなことになるかまったく想定もできない。なんであれ、マカリオスとアデーレがアイテールを起動するまで、彼らを守ることが第一目標となる。通常戦闘では決してゼウスには勝てないからだ。
切り札が出せるようになるまで耐える必要がある。
加えて、戦闘と前後してエウロペの安全も確保する。
「…みんな、行こう」
立香は深呼吸をしてから一歩踏み出す。
同時に、迎え入れるかのように巨大な扉が開いた。両開きの鋼鉄の扉は、それだけで数百メートルの高さがある。
大きい分ゆっくりと開く扉が開ききる前に、人間にとっては十分な幅になったところで中へと突入する。
アーサーやカイニスなどサーヴァントたちが警戒しながら先行して入ったが、広大なスタジアムのような空間にはなんの姿もない。
ドーム状の天井は開いており、中央からは上空に浮かぶ結晶山脈とクロノス=クラウン、そして空想樹が見えている。開口部には巨大な地球儀のようなものが浮かんでいた。
するとそこに、突然大きな鐘の音が響き始めた。
『神格、降臨。大祭壇領域に神格が自動顕現します。神格擬体名、ゼウス。周囲の知性体には精神防御を推奨します』
同時にアナウンスがなされ、広間の中央に急速に魔力が集中していく。直後、クロノス=クラウンから稲妻が放たれ、地球儀とその周囲の環状の鋼鉄を介して、広間中央に大柄な男が顕現した。
アーサーは右手で唯斗を庇うように制する。
「マスター、防御を」
「…分かった」
立香には礼装で、唯斗は魔術で精神防御を行う。ストーム・ボーダーで遠くからゼウスの言葉を聞いただけで失神しそうになったのだ、こんな目の前で顕現されてはどうなるか分からない。
男は纏っていた静電気のような雷を鎮めると、こちらを睥睨する。
「是は、祝福ではない。是は、喜びのうちに終える拝謁とは異なる。故に…平伏せよ」
その言葉と同時に、まるで大気が固まりとなって押しつぶしてくるような、強大な圧力が頭上からかけられた。堪らず全員よろめき、膝をつく。
唯斗や立香は姿勢を維持することもままならず、膝どころか手まで地面につけて跪いていた。マカリオスとアデーレも腕まで地面について伏している。
しかし、カイニスはそれでもゆっくりと立ち上がる。
「だらしがねぇ、とは言わないでやる。こういうのに立ち向かうのは、英雄様の役目だからな!ったく、平伏なんてな、テメェのカリスマだけでやりやがれってんだ!」
「さっすがカイニス、気合いで切り抜けるとはね!私も負けてられない、な!」
「わ、たしも、ただの、一声で、負けるわけには…!」
武蔵、マシュも続く。もちろん、アーサーもすでに両足でしっかり立ち上がっていた。もともと、片膝しかついていなかったのはさすがとしか言えない。
「カイニスの言うとおりだ。膝を自らついて頭を下げたくなる、それが在るべき統治者の姿だろう」
さらに剣を構えたアーサーを見て、ゼウスは僅かに口元を緩める。同時に、全員にかけられていた重圧がふっと消える。
「いいだろう。では全能たるゼウスが問う。カルデアよ。お前たちは、何のために、我が異聞帯を訪れたのか」
ようやく立香と唯斗も立ち上がり、立香はゼウスを毅然と見上げて答える。
「空想樹をすべて破壊して、世界を取り戻すためだ」
「…ふっ。世界か。よかろう。アデーレ、マカリオスよ」
当然のように固体名を識別しているゼウスに意識を向けられた双子は肩を揺らす。二人に、ゼウスは告げた。
「是は、お前たちの友の高潔への賛美である。我が下賜する恩寵である。あれの処刑、お前たちに任せよう」
「な…っ、」
その言葉とともに広間に現れたのは、エウロペだった。どこか視線が合わず彷徨っている。
「……神託は、すでに下されています。全能なるゼウス、どうかお言葉を」
「殺せ、あるいは殺されよ。お前の命運は、彼らに託した。マカリオス、アデーレよ。拒むことは許されぬ。是は、我がお前たちに下す恩寵なのだから」
なんと、ゼウスは双子に対して、エウロペを自ら始末しろと命じたのだ。エウロペはすでにゼウスによって精神を汚染されているようで、思考も定まっていない様子だ。
あまりに悪趣味な命令に、マシュは一歩踏み出す。
「そんなものは恩寵では…!」
「恩寵である」