星間都市山脈オリュンポスIII−9


しかしゼウスはたった一声発しただけで、再び重圧をかけてマシュの動きを止めた。
さらに、タロスがゼウスに呼び出されて現れた。開いた天井から青銅の巨人タロスが顔を覗かせ、壁とステンドグラスが破壊されて柱が倒れる。スタジアムの一部を破壊して入ってきたタロスとエウロペが、一同の前に立ちはだかっていた。

それでも、ホームズはふらつきながらもゼウスをやや睨み付けた。ごく僅かではあるが、感情の滲んだ視線は珍しい。


「贈り物に悪趣味な意味をつけるなど、汎人類史での大神には見られない特徴だ!大神ゼウスよ!あえて口にしよう!あなたはどうやら私たちの知る大神とは器が違う!」

「はは!賢人のくせにいい啖呵じゃねぇか!」

「啖呵じゃなくて事実でしょ!悪趣味ったら!」


カイニス、武蔵はそれぞれ槍と剣を構える。カリギュラとアーサーもすでに臨戦態勢だった。


「サンソン、ガウェイン」


唯斗は一時召喚としてガウェインとサンソンを呼び出す。唯斗の両隣にそれぞれ現れた二人に、唯斗は広間の中へと入ってくるタロスを示す。


「母なるエウロペを救出する。まずはあのタロスを破壊しよう」

「承知いたしました、マスター。太母エウロペ救出のため、青銅の巨人タロスを駆逐します」

「我らフランスの父がシャルルマーニュなら、全欧州の母はエウロペです。必ず助け出しましょう」


ガウェインもサンソンもそれぞれ頷いて、大剣を構えて走り出した。アーサーもタロスに向かっている。カイニスと合わせてタロスの破壊は唯斗が主軸となって行い、立香はエウロペの無力化にあたった。
ゼウスは手を出さないらしく、カルデアとエウロペ、タロスとの戦闘を見守る。

アーサーは、ふりかざしたタロスの腕に飛び乗ると、そこから頭目掛けて走り出す。サンソンも、タロスの巨体を飛び回って徐々に頭部へと進んでいた。
一方、ガウェインは足下にガラティーンの炎を放った。その高温によって、聖なる青銅ですら融解させ、弱体化した間接をカイニスの槍が貫く。

回復できない傷によって、タロスの足は崩れ落ち、アーサーとサンソンを振りほどこうとしていた動きは止まる。
その隙に、アーサーのエクスカリバーがタロスの目を両方とも焼き潰した。

痛みはないだろうが、敵を視認できなくなったタロスは見境なく暴れて腕を振り上げ、サンソンが振り落とされる。さらに、タロスは空中で姿勢を立て直すサンソンを、横から拳で殴り飛ばした。
巨大な拳は壁のようであり、サンソンは吹き飛ばされ地面に叩き付けられる。あまりの勢いに床には亀裂が入る。


「サンソンっ、!」

「令呪は不要ですマスター!まだ取っておくべきです!」


令呪を使おうとした唯斗の気配を察知したのか、サンソンはひび割れた地面から上体を起こして唯斗を制止する。
サンソンは横目で微笑んでから、宝具を展開した。


「マスターが守りたいと決意したのなら。最大限、それに応えましょう」


魔力でできた巨大なギロチンが横向きにタロスの首元に出現する。重力などは関係なく、サンソンの宝具は必ず首を捉えるのだ。


死は明日への希望なり(ラモール・エスポワール)


そして、宝具の真名解放とともに、ギロチンは水平方向に「落下」した。刃がタロスの首元を捉え、青銅を断ち切ろうとする重い金属音が辺り一帯に響く。
サンソンはどうやら霊基のすべての魔力を宝具に注入しているらしい、血を吐きながら宝具を維持していた。

アデーレはその様子を見つめている。


「死は、明日への希望…」

「…サンソンは処刑人の英霊だ。汎人類史において、2000人以上を処刑した。もともと死刑制度を廃止することを求めた立場だったのにも関わらずな。そんなサンソンは、死は安寧であるべきで、死は死んだ先の存在しない『明日』への希望であるべきだと考えてたんだ」

「…そう、なんですね」


アデーレもマカリオスも驚いたようにサンソンを見つめていた。宝具は完全に解放され、その刃がついにタロスの巨大な首を刎ねる。同時にサンソンの霊基は消失し、ギロチンもかき消えた。
タロスの巨体はぐらりと傾き、スタジアムの壁を破壊しながら後ろに倒れた。


「……優しい、処刑人なんだな」

「あぁ。俺の第二の故郷が誇る、偉人だよ」


立香たちもエウロペの無力化に成功し、前哨戦は完結する。ホームズがエウロペを抱きかかえて双子の近く、後方まで連れてきた。ガウェインをカルデアに退去させると、広間には静寂が落ちる。

ゼウスは、静かにカルデアを睥睨する。


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