星間都市山脈オリュンポスIII−10


「…ブレッタニアイの騎士王よ。お主は汎人類史の英霊ではないはずだ。なぜ、お前はカルデアに手を貸す」


すると、ゼウスは唯斗のところに戻ってきたアーサーにそんなことを問いかけた。どうやらゼウスは、アーサーや武蔵がもともと汎人類史の英霊ではないことまで理解しているらしい。そういうところは、真実、全能に近い権能だ。

アーサーはゼウスの問いに、剣をいったん下ろしてまっすぐに見上げた。王として、神に対峙しているのだ。


「私はかつて、大きな思い違いをしていた。汎人類史も私の世界でも、ブリテンは滅び、中世という1000年の人類史に組み込まれていった。息子の叛逆、壊れゆく円卓、戦火の広がるブリテン島、ガリア、ブルターニュ…すべての果てにブリテンは滅亡した。その血塗られた結末を、私は変えなければならないと…永遠の王となったからこそ、私は、ブリテンを救済しなければならないと思っていた」


唯斗はアーサーがしっかりと語り出したことに僅かに驚いて、そっと視線を向ける。
唯斗の前に立つアーサーの表情は分からないが、アーサーが自身のことを詳細に語ったことはあまりなかった。
過去のことではなく、その時その時にアーサーが感じたことをアーサーは伝えてくれていたからだ。唯斗も、アーサーに過去のことを根掘り葉掘り聞くことはしなかった。
知りたくなかったかと言えば嘘になるが、過去のマスターとのことを聞いて自分に自信をなくすには、アーサーがあまりに強く愛を伝えてくれていたため、グランドオーダーなど作戦に必要でない限り、アーサーから言わなければ聞かなかったのだ。

アーサーがかつて、ブリテンの滅びない未来を得ようと聖杯戦争の召喚に応じたことは知っていた。だが、そのときのことを詳しく聞くのは、これが初めてとなる。


「…間違っていると思った。あんな血に濡れた結末でブリテンが記憶されるのは。けれど…その最初の現界で、私は、マスターの幼い妹に諭された。その過去があっての現代なのだと」


汎人類史のアーサー王、アルトリアも同じような理由で過去に聖杯戦争に参加したことがあると言っていた。彼らにとって、あの滅びの結末は、やはり避けたいものとして記憶されていたのだ。
しかし、アーサーは聖杯戦争で気づかされる。


「過程と結果はワンセットじゃない。どちらも独立した人間の意志だ。貧しいブリテン島を豊かな国にしようと奮闘した日々も、その後のブリテンの凄惨な滅びも、現代の礎となって、今も脈々と英国に、欧州に、世界に息づいている。2つの聖杯戦争を終えて、アヴァロンから今度はビースト討伐のために世界を流転することになり、そして、私はマスター…唯斗と出会った」


そこでアーサーは少しだけ唯斗を振り返る。微笑んだアーサーは、再びゼウスに視線を戻した。


「彼は生まれたときから一人だった。母はなく、父には存在を無視された挙げ句に死者蘇生術式の生け贄にさせられて…おおよそ人間性という点で、多くの人が得られていたものを得ることなくグランドオーダーが始まった。それでも彼は、世界が彼に優しくはなかったにも関わらず、戦うことを続けた。努力を続けた。それは、孤独だった生活において、歴史が彼に居場所を与えていたからだったそうだ。歴史を知り世界を知ることで、世界そのものが居場所になるような感覚があり…それが孤独を癒し、彼が人理を守る目的となった」


守ろうとしている世界に居場所なんてなかった。それでも戦えていたのは、無意識に、歴史というものから世界そのものを居場所に感じる感覚を覚えていたからだ。


「連綿と続く人類史、その上に自分が生きていると理解すること。それこそが唯斗に、歴史の上に生きる実感とともに居場所を与えた。私が気づかされたことと同じだったんだ。ブリテンの滅びもまた、現代の礎として連綿と続く土台になっている。そうやって神が、王が、英雄が、そして人々が紡いできた歴史の末に、一人の少年がそれを生きる理由にしていた。そんな自分を理解した唯斗は、人間だからこそ、人間の歴史を守ってくれた者たちに顔向けできるよう戦わなければならないのだと言っていた」


それに気づいたのは第五特異点から第六特異点にかけてと、グランドオーダーの中でも後半でのことだった。そしてそれは、アーサーにとって、過去のマスターと同じような考え方に基づくものであった。
積み重なった歴史の上に今がある。その尊さを、アーサーは二人のマスターを通して知ったのだ。


「どんな陰惨な過去であっても、すべて歴史だと受け入れ、敬意を持ち、英霊たちにも敬意と誠意を持って、必死に託されたバトンを後に繋ごうともがいた。だから、守ろうと思った。けれど唯斗は、もっと強くなり…いつしか、私のことも守り支えてくれるようになっていた。私に、共に歩こうと、隣に立とうと言ってくれた。王という機構に過ぎなかった私にそんなものは本来不要だったのに…守る相手は、いつしか共に戦う相手になっていた」


そう言って、アーサーは一歩下がって唯斗の右隣に立った。守るために前に出ていたところから、唯斗の真横にしかと立ち、ゼウスを見上げている。


「唯斗を、藤丸君を、カルデアの人々を見よ、大神ゼウス。人とは、斯くも強く、まっすぐで在れる。間違えることもあるだろう、至らないところは枚挙に暇がないだろう。それでも、人というものは…自ら明日を切り拓く力を持っているんだよ。たとえ正解の分からない不透明な汎人類史であっても、凄惨な過ちを繰り返してしまう歴史であっても、それでも。時に、選ぶこと自体が答えになることもある。だから、この世界は剪定されたんだ」


325/359
prev next
back
表紙へ戻る