星間都市山脈オリュンポスIII−12
『我は人を守り、都市を守り、オリュンポスを維持しなければならぬ。だが、やむを得ぬ。知性体保護機能、解除』
「ンの野郎、手加減してたっつーのか…!」
カイニスも歯ぎしりしてゼウスを睨み付ける。市民を守るために行っていたセーフティを解除したのだ。手加減、というより、自制といった方が正しい。
さらに、セーフティの解除が続く。
『対惑星破壊機構、限定解除。対時空攻撃機構、限定解除。対概念破砕機構、限定解除』
「………は、」
ゼウスは、世界を滅ぼすつもりだ。星を破壊し、宇宙の時空を歪ませ、そして概念を消失させてあらゆる生命体の存在前提を喪失させる。
本末転倒にも程がある。ゼウスはいったい何を目的としているのか。
「そんな、ゼウスの雷霆で焼かれたらオリュンポス市民だって全滅だ!廃墟になったオリュンポスを守って何になる!?守るべきものがなくなったこの異聞帯で、なんのために異星の神の降臨より前に空想樹を使うんだ!」
思わず口に出してしまっていた唯斗に、ゼウスは初めて直接、唯斗を見た。はっきり個として認識され視線を向けられたことで、それだけで、心臓が止まったかと思った。息を飲んだ唯斗を支えるために、アーサーが慌てて唯斗の前に庇うように立つ。アーサーの背中に隠れていても、ゼウスの目を感じずにいられなかった。
『賢者のような脅威ではない、が。人の子よ、時に聡き様を隠すことも覚えよ。無意味な忠告であるが』
ゼウスは答えないかと思ったが、少しの沈黙ののち、回答を口にした。
『異星の神が降臨する前に。せめて。空想樹に蓄えし全霊子を以て、せめてこの星間都市山脈だけでも。我が愛すべき民の痕跡だけでも、宇宙に放ち、神代に留めおくのだ。それが、かつて我らを神と讃えた知性体への、せめてもの返礼である』
オリュンポスの神々は、宇宙を遙々旅して地球に降り立った。そこで人類から神として崇拝され、神話となり、この星が、彼らの居場所となった。
ヘファイストスからはそこまで話を聞いていたが、どうやら思っている以上に、ゼウスにとってはその事実が大切だったらしい。
ゼウスは、かつて自分たちを受け入れ神としてくれた人類を、愛しているのだ。
「異星の神のエネルギーとして消費される前に、廃墟になったオリュンポスに人類の痕跡だけを残して…痕跡だけになってでも、守ろうとしているのか」
『然り』
「…廃墟のオリュンポスの他に、機神も人もいない孤独の航海をしてでも?」
『その通り。苦悩も思考も孤独も、それは我だけでいい。人よ、そのような結末しか選び取れぬ我が恥辱を許せ』
こんな局面ではあるが、ゼウスの覚悟に、人の心を知った機械仕掛けの神の純粋な優しさに、唯斗は目を閉じる。
「人類」というものへの愛情、という点で言えば、ある意味、唯斗や立香たちカルデアよりも遥かに、ゼウスの思いは強いだろう。それこそが、今から解放されようとしている権能の真の力だ。
『星間都市の知性体すべてにお知らせします。本惑星上の生命体すべてにお知らせします。是より、最終的裁定が発動します。すべての知性体、生命体の生命活動が終了します。お疲れ様でした』
打つ手はない。もはや、この質量は対抗できない。いや、対抗できる力が存在してはいけない。それほどの強さだ。
いよいよもう駄目だ、と思ったのは、アルテミスの矢を初めて受けたときに続いて2度目だ。
しかしそこに、抑止力が働いた。いつも変な形で働くそれは、今回も突拍子もない姿で現れる。
『ゴオオオオルデン、ダゼ!!!』
ゼウスの頬に拳を突き立てるのは、まさかの巨大な甲冑、大具足。ゴールデン・ヒュージ・ベアー号という金時の宝具を利用した仮想宝具だ。
ゼウス装甲の概念武装に防がれたことで、激しい火花と光が神殿を照らす。まったく効いているそぶりはないが、一方で、ゼウスもその権能の解放ができない。まさに時間稼ぎだ。
『権能ハデスにより、対象物質を最小単位まで自動分解します』
『あんたと同じ源のものであれば!あるいは届くんじゃ、ねェのかなァ!』
具足は拳から急速に分解されていき、粉々になっていく。それでも、膨大な魔力の出力を肌で感じた。アイテールが起動したのだ。
『大術式・雷電誘導連鎖召喚!!』
都市の神造霊脈を利用した巨大術式が起動して、莫大な魔力が光線となって具足を包む。具足の物質的形質は消失したが、代わりに、星空を駆け巡る光線が再びゼウスに衝突した。
それは赤い装甲、巨大な槍。
『我、軍神アレスが此処に在り!!』
なんと、召喚されたのは汎人類史の神、軍神アレスだった。平安の具足を触媒にするというのはなんとも奇想天外だが、この異聞帯だからこそできたことだろう。
ゼウスはアレスの槍を結界で防ぎつつ、じろりと睨み付ける。
『汎人類史の軍神アレスなれど、所詮はすでに破れた機神一機。せいぜいが奇襲の一撃が限界であろう』
『否!』