星間都市山脈オリュンポスIII−13
確かに戦力として大きいが、ゼウスがあまりにも強大すぎる。事実として、全盛期のアレスはこの異聞帯ではゼウスに敗れているのだ。
しかし、マカリオスはさらにアイテールを起動させる。そういえば、本来この術式はグランドクラスの英霊を召喚するものだったはず。神の顕現のためではない。
カリギュラはゼウスを前に仁王立ちになる。
「大神ゼウスよ!我らローマこそが、対峙するに相応しい!これにて余のこの異聞帯における役目は果たされた!マカリオス、アデーレ、最終召喚を!カルデアのマスター、汎人類史に生まれし者として最後の導きを!」
カリギュラの視線を受けて、立香は頷く。そして、声を張り上げた。
「最終召喚、開始!」
雷霆渦巻く都市に、最後の術式が起動する。莫大なエネルギーが収束していき、やがて、瓦礫の散乱する広間の中央に、彼が現れた。カリギュラを触媒として召喚された英霊は、見るからにグランドクラスの格を持っている。
だがそれは威圧感ではなく、包み込むかのような、いわば父性。
「…随分と、待たせたな。今より此処に、我が在る。神祖にしてローマ最高神」
「……まさか、」
光の中から現れた背の高い男は、紺の長い髪を風になびかせ、黄金の巨大な甲冑を纏っている。風格、神格、すべてが最上位存在。ゼウスと同様に、神話体系の最上位に位置する者の霊基だ。
「冠位を以て罷り越した。我が光の腕に人理が与えし霊基は、槍の冠位。グランドランサー、ロムルス・クィリヌスである」
『ッ!貴様か、主神クィリヌス!!』
ロムルス、ローマ建国の祖であり、ローマ神話の主神クィリヌスと同化したと考えられる人物だ。人のまま神になった存在である。
古代イタリア半島中央、現在のローマに存在していた古代都市ラティウムを中心に、サビニ人やエトルリア人によって運営されていたアルバ王国。その内紛によって王家から赤子のうちに追放された双子は狼に育てられた。その片割れがロムルスであり、新たな王国の建国を巡って弟と争い、勝利した。
そうしてローマを建設し、伝説上、古代ローマ初代国王となった。
その後忽然として姿を消したとされ、そうして神に昇格し、ローマ神話の主神クィリヌスとなった。
「人の煌めきを奪わんとする呪いに抗い続けし、お前たちの願いを聞いた。そして奇跡は成された。私は此処に在る。ああ、
我が子らよ!!」
「…なるほどな、さすが、近代英霊たちがブレインになった破神同盟だ」
唯斗はブラヴァツキーやエジソン、ニコラ・テスラの考えをようやく理解して、ゼウスを本気で倒すために万全を尽くしてくれたのだと改めて知った。
「古代ローマ最初の王にしてローマ神話の最高神。王政ローマはやがて共和政を経て帝政になり、その過程でギリシアを含む地中海世界すべてを支配した。ギリシアを支配した文明の主神、その概念強度なら、ゼウスを上回る」
今までも、概念の強さが決め手になってきた。神話や逸話の再現、同じ場所、同じ流れなどによる概念的補強だ。
ホームズもここで破神同盟の真の目的を理解して笑みを浮かべる。
「ははは、破神同盟。さすがと言わざるを得ないな。なるほど確かに、人として神となったローマの神祖であれば、ゼウスの対抗馬に相応しい!」
「
我が子らよ。さあ、征こう。共に世界を救うのだ」
ロムルスがそう言った途端、すべてのサーヴァントが霊基出力を大幅に引き上げられていた。星空は輝く黄金の空に色を変えて、あふれ出る魔力の粒子が空中を漂う。
『人理に生まれ落ちた我らがローマ!人の愛、想い、人が連綿と紡ぐ浪漫を見た子らよ!戦え、勝て!そして生きよ!』
アレス、あるいはマルスはそう呼応して槍を構える。ロムルスも浮遊してゼウスに対峙する。雲の合間から差し込む陽光や輝く鳩の羽は幻影だが、決して幻ではない。
「…ふ、僕としては少し複雑だけれどね」
アーサーは聖剣を構えていたずらっぽく言った。確かに、アーサーの立場ではそうかもしれないが、唯斗も苦笑する。
「でも、俺たちにとっていろいろなスタート地点は、第二特異点のローマだっただろ」
「…そうだね。その通りだ」
初めてアーサーとともに旅した特異点がローマだった。遥か昔のことのように思えるが、鮮烈なロムルスの光は、初めてではない気がした。
ロムルスはゼウスの前に浮かび上がると、両腕を高く掲げて宝具を展開する。
「
我らの腕はすべてを拓き、宙へ!!」
直後、ゼウスを取り囲むようにローマ市街が擬似的に展開され、黄金に輝くローマの上空より、大量の槍が降り注いだ。黄金の槍がゼウスに向けて雨のように放たれていく。
アレスは避けようとするゼウスを鷲づかみ固定し、外装が結界ごと槍に破壊され始めた。
ゼウスは咄嗟に魔力源を自身のものに変えて対応しているのだろう、結界が次々と剥がれ始めた。これならまとめて剥がして神核を露呈させられる。
「立香、マシュ、バレルの準備しろ。アーサー、ゼウスのツラ剥がすぞ」
「分かった!」
「了解です!」
「いこうか、マスター」
ロムルスの宝具はそろそろ攻撃を終了する。ゼウスが攻撃に転じる前に、唯斗は右手の令呪に魔力を籠めた。
「令呪3画を以て命じる。あの優しい神に終わりを」
機械というには優しすぎたゼウスに向けて、アーサーはエクスカリバーを構える。議決が始まり、拘束が解除されていく。
「
約束された勝利の剣!!!」
そうして放たれた光線は、ロムルスの槍が途切れた瞬間にゼウスの顔を直撃する。アレスはその槍でゼウスを固定し、エクスカリバーが外装を融解させていくのを手伝った。
ゼウスは咆哮を上げて光線から逃れようとしたが、アレスの槍から逃れることができず、ついにその神核を露出させた。
すでにブラックバレルの展開を終えていたマシュは測定を開始する。唯斗は令呪をすべて使ったことでふらつき、アーサーに支えられながらそれを見つめた。
「カウントダウン、開始します。ゼウスの天寿、測定。6000、5000、4000…1000…え?」
マシュは観測された天寿に一瞬動揺したが、頭を振ってプロセスを続ける。
「い、いえ、問題ありません。逆説構造体、形成。生命距離弾、砲身に焼き付け。砲身固定、発射準備完了。マスター!」
「令呪、装填!」
立香も同様に3画目の令呪を使用して弾を込めた。ふらつく立香はなんとか立っている。
マシュは、心配そうにちらりと見たが、発射最終工程を終えた。
「発射!!」
ついに、ブラックバレルはゼウスを捉える。その黒い光線が放たれてゼウスの目を直撃すると、脳天にあたる機構すべてを貫いた。
炎が噴き出すのと同時に、ゼウスはこの瞬間、強制的に天寿を全うしたのだ。