星間都市山脈オリュンポスIII−14
ゼウスは沈黙し、巨大な機体はバラバラに崩壊していった。神核は破壊されもはや意志もないだろうが、その魔力エネルギーはしばらく留まり、同時に磁場も維持される。もう少し、粉々になったゼウスの破片とともにこの神殿も浮遊を続けるだろう。
ローマの黄金の輝きが空を満たす中、勝利の余韻もない疲弊しきったところに、再びアナウンスが告げる。
『警告、警告。最終的裁定機能の発生源よりアクセス。是より、恒常的時空断層が発生します。時空震にご注意ください』
そのアナウンスとともに、成層圏に突如として亀裂が入った。空間に、ひび割れが生じたのだ。
徐々にその亀裂は大きくなっていき、黄金色の空を切り裂く。
「こ、これはいったい…まるで空間そのものが、ひび割れているかのようにも見えます!」
「…ケラウノスの発生源?」
ケラウノス、雷霆のことであり、最終的裁定機能ともこの異聞帯では称されているゼウス最大の権能だ。もとはウラノスとガイアの子サイクロプスが、タルタロスから助け出された礼にとゼウスに渡した権能とされる。
雷霆はかつてカオスをも焼き払った膨大なものだが、その発生源そのものもまたカオスに存在したものだ。
何より、カオスとはギリシア神話において始まりにあったもの。現代物理学で言えば、ビッグバンの前に存在していた中性子と原子だけが満ちる空間のような概念であり、「はじめにカオス在りき」という世界の土台だ。
つまり、ケラウノスの発生源からのアクセスというのは、まさか、カオスから、という意味だろうか。
その答えは直後にやってくる。
亀裂は突如として崩壊し、まるで瞳が開くかのように、空に穴が開く。そこからこちらを見つめる灼熱の瞳のようなものは、あまりに巨大だった。
唖然とする一同を照らす禍々しい光によってローマの輝きは失せる。
それを見上げるアレスは、巨体をわなわなと震わせた。
「おお、おおおおお!あなたは…!そんな狭間で存命しておられたのか!星間航行用超巨大母艦、最も古き機神!カオスよ!」
誰も言葉を発することもできないほどの驚きだった。原初神カオス、その本体が今、あの穴からこちらを見つめている。
切り裂く、裂け目という意味の英単語gapeと同じ語根に由来するカオスは、その原始的な意味として、裂け目を象徴する存在だった。空隙、それが本来の意味。
直後、アレスは消えていた。
何が起こったかのかも分からないまま、カルデアの前にロムルスが立ちはだかり、アレスは忽然と姿を消していた。
呆然とするマシュは、空を睨むロムルスに尋ねる。
「あ、れ…アレスさんが……」
「彼はお前たちを守って死したのだ。すでに霊基は雲散霧消した。アポロンをも上回る太陽の大権能!」
「…そうか、カオスは原初神、つまり、機神たちのオリジナル…カオスからコピーされた機能を権能として行使したのがティターン型、オリュンポス型それぞれの機神たちってことか…」
唯斗は呆然と空の瞳を見上げる。総力を挙げて挑んできた権能の持ち主たちの、本来の力の主であり、それらをただの機能の一つとしてしか認識していない原初の神。
「そうだ。あれこそは、天球型時空要塞カオス。宇宙における時空の空隙と一体となった頂上の神!その核こそは、空隙の果てに垣間見える巨瞳!遥か遠き他星系の恒星を核として形成された超大型構造体、恒星球核!」
なんと、カオスの神核は恒星。それも、太陽のような若いものではなく、ベガやアルタイルのような高エネルギー星だろう。
エウロペは意識をはっきりさせたようで、アデーレたちに支えられながら同じく空を見上げる。