星間都市山脈オリュンポスIII−15
「あの御方…カオス様の目的は、船団の維持。オリュンポスばかりかこの惑星の表層資源を取り込み…再び星の海へと……」
『緊急警告、緊急警告。資源の強制回収が開始されます。惑星表層資源の原初返還が実行されます。星間移民航行条約に基づき、未登録惑星の容積、その37%を徴収します』
「…今とんでもなく身勝手な警告が聞こえたんだが。ふむ。つまり地球の表面、その37%をえぐり取る、ということかな?」
「なっ、それじゃ地球の重力が崩れて太陽の重力に引きずられて太陽と衝突するぞ…!」
アナウンスはエウロペの言葉をしっかりとなぞり、はっきりと、この星を魔力変換して持って行くと告げた。
ホームズと唯斗の反応で、立香はようやく理解が追いついたのか、ことの重大さに気づく。
「そ、それじゃ白紙化をなんとかしても地球ごとなくなっちゃうじゃん!?」
「…アーサー、どう思う?」
アレと戦うことができるのか。唯斗は隣に立つアーサーを見上げて確認したが、アーサーは表情を険しくして首を横に振る。
「こればかりは、物理的な問題がある。君の考えている通り、現状…我々に、攻撃手段はない」
「そうだよな。せめて、あの穴を閉じることができれば、この際カオスを倒す必要はないけど…アルテミスより低い高度とはいえ成層圏、さらにその先は宇宙の隙間ってなら、手立てがない」
「淡々と言うなよ…」
ゴルドルフのようなツッコミをマカリオスにもらったが、実際そうなのだ。もはやカルデアに打つ手はない。
あの穴を閉じるだけでいいのだが、それが土台できないのだ。何せ、あの高さまで行く手段も、あの穴を閉じる手段もない。
しかし、意外にも武蔵が一歩踏み出した。
「…ゼウス神は無理だけど、あのカオスさんとやらなら、私、倒せましてよ?」
「え、武蔵ちゃん?」
「いやいや。強がり言いたい気持ちは分かるが、落ち着け。笑えねぇぞ、その冗談」
カイニスですら冷静に窘めるが、武蔵はやる気に満ちている。行ける、と確信している表情だ。いったい何を根拠にと思わざるを得ない。
しかし、武蔵は唯斗を振り返った。
「唯斗、あのカオス神が見下ろしているのは穴、なのよね?あれを閉じればいいというのは同意よ」
「ああ、あれは宇宙と宇宙の隙間、何もない無の空間に繋がる入り…口……まさか、」
「そう。私こそ適任、分かるわよね?」
「零を切り、無の先へ…空思想の極地、ってことか…いや待て、それでもあの質量だ、あんたの霊基は…」
「な、なに、唯斗、武蔵ちゃん、何する気?」
すでに倒す算段をつけている武蔵と、懸念を示す唯斗に、立香は焦ったように尋ねる。
立香にとって、武蔵はただのサーヴァントではない。下総をはじめ、立香が絶望的な状況に陥ったときに共に戦ってくれた相手であり、ラスベガスなどでも世話になった、特別な英霊だ。
「宮本武蔵の二天一流は、古典インドからの空の思想を重視していた。ゼロの概念であり、何もないということの意味を追求した哲学だ。零の先の無、そしてカオスはまさに、間隙そのものだ。それを切る、と武蔵は言ってる」
「で、できるのそんなこと」
「…本人はやるつもりだけど…やれば、ここで終わりだ。霊基が保たない」
「そんな、待って武蔵ちゃん!」
武蔵は困ったように笑ってから、優しい表情を浮かべる。そして、視線を空に固定した。まるで、立香を見ていると意志が揺らぐと言っているかのようだ。
「…言ったでしょう、これが最後だって。いつも世界を漂流するとき、ある世界を出て、隙間みたいなとこに出ると、下に窓みたいに世界の選択肢が広がっていた。それを順繰りに出ては入って、と旅してきたのです。そして…この世界が最後。もう、他に入るところは…女武蔵を受けて入れてくれるところはなかった。きっと私のいた世界は剪定されたのね、だから、帰る場所なんてなかった」