星間都市山脈オリュンポスIII−17
ゼウスは破片となり、カオスは閉じた。
そして、ボーダーをカオスへと送り届けることに魔力をすべて使ったロムルスも消失し、約定通りカイニスは離脱して一足先にキリシュタリアの元へと戻った。
残されたカルデアは、アデーレたちとエウロペを伴って、徐々にゼウスの磁場が弱まって崩壊し始めた神殿を最上階、空想樹に繋がる離宮へと向かう。
立香、唯斗ともに令呪はすでに使い切っており、誰もが疲労困憊という状態ではあるが、その足取りは重くない。
やがて離宮に辿り着くと、円柱が支えるアーチの回廊が取り囲む屋上に出た。
広い広場に天井はなく、空想樹がその威容を誇る。満開に至った空想樹の中には銀河が見えていた。
「攻撃してこない…もう最終段階だから防御特化状態になってるのか…?」
「ご明察だ唯斗。カルデアの残党諸君、ようこそ、アトラスの空想樹へ」
種子を飛ばしてこないことに怪訝に思っていると、唯斗の推測を肯定しながら、悠然と青年が現れた。
金髪をなびかせて、優雅にカルデアの前に降り立つキリシュタリアとカイニス。アトランティスでは二人が噛み合っているようには見えなかったが、不思議と、今は主従として成立しているように見えた。
「推測通り、すでに空想樹は満開に至り、その機能の大半を自己防御にあてている。ああなった空想樹の樹皮は、外部からの干渉を受け付けない。あれを枯らせることができるのは、空想樹と接続していたゼウスか、その使用権を所持している私だけだ。つまり…」
その言葉を引き取るようにして、立香がキリシュタリアの正面に立った。
「あなたを倒すしかない、というわけですね」
「…その通りだ。ようやく、君たち本来の姿を見せてくれたね」
毅然とした立香の態度に、キリシュタリアは薄く微笑んだ。アトランティスではイメージと違った、なんて言っていたが、あのときよりもはっきりと、キリシュタリアを敵だと認識している。
いや、この異聞帯を滅ぼすという意志を、カルデアが明確にすることができたということだ。
「まさしくデイビットの話した通りだ。今の君こそ、私が戦うべき最大の敵と言える」
「…色々言いたいことはあるけど。まずはあなたを倒してからだ!」
久しぶりに、ここまで強気なところを見た気がする。異聞帯での立香が弱気だったということではなく、あまりの厳しい状況に、自然と立香も冷静で落ち着いた様子を見せていた。
そう振る舞おうと努め、ときに唯斗に弱音を吐いてくれていたわけだが、今はとにかく突き進んでいたグランドオーダーのときを思い出させる。
武蔵の影響か、キリシュタリアという強大な敵をとにかく倒そうという気概かは立香にしか分からないことだが、それはどちらでもいいことだ。
「始めようカイニス!これが、最後の人間同士の戦いだ!」
「ッしゃあ!今こそ殺してやるぜカルデア!!」
カイニスは猛然と槍を振るい襲いかかってきたが、誰よりも先にアーサーがその剣で槍を受け止めた。金属音が辺りに響き渡り、衝撃波が空気を揺らす。
「君には散々苦渋を味合わされてきたが、それも終わりだ」
「てめェが、なッ!!」
カイニスはやはり膂力が権能によって強くなっているため、アーサーを吹き飛ばす。だが、アーサーももう、それだけで押されるわけではなかった。
一度距離を取ってすぐにその距離を縮め、カイニスの槍をくぐり、目にも留まらぬ速さで背中に回り剣を突き刺す。
腰を抉った剣に舌打ちをしながらカイニスは体を回転させて槍を投げ、数メートル跳躍してからその槍をキャッチしてアーサーに投擲した。
アーサーは弾けないと瞬時に判断し、距離を取って魔力を剣から放出、遠距離で軽い光線を放ったが、カイニスは身軽に避けた。
すると、その避けた先に別の英霊が現れていた。立香が召喚していた牛若丸だ。スピードにはスピードということだろう、カイニスの俊足の槍に追いつくため呼び出していたようだ。
さらに、エレシュキガルも召喚されて、アーサーと牛若丸の援護に入る。
「と、とんでもないところが初陣なのだわ!」
「ごめんエレちゃん!」
最近カルデアにやってきたため、異聞帯での一時召喚は初めてだ。
牛若丸とアーサーがそれぞれ距離をとった隙に、ガルラ霊を地中から出現させてカイニスに噛みつかせる。それに気を取られたところに聖剣と日本刀が迫る。
「邪魔だ!」
「なんの…っ!」
カイニスは牛若丸を振り払おうとしたが、俊敏に牛若丸はそれを避ける。しかし、カイニスの方が速く、水しぶきを上げる槍の一薙ぎによって牛若丸は吹き飛ばされ、円柱を破壊して叩き付けられると、そのまま消失した。
間断なく攻撃するべく、唯斗はガウェインを呼び出す。
「連戦で悪い、見ての通りだ」
「承知しました」
ガウェインはすぐにアーサーの援護に入る。エレシュキガルのガルラ霊による遠隔攻撃の合間を縫って、アーサーとタイミングを合わせて攻撃する。
互角の状態が続いたところで、ふと、キリシュタリアが声を発した。
「すまない、いったん手を止めてもらえるか」
「えっ」
誰もが呆気にとられる。カイニスは憮然としながらも槍を止めてキリシュタリアのところへと戻った。
「時間だ」