星間都市山脈オリュンポスIII−18
端的にキリシュタリアが告げた通り、突然、空想樹が膨大な魔力を放ちながら輝き始めた。その巨大な枝が広がり、銀河が光に包まれて見えなくなり、空想樹の真上には巨大な光輪が幾重にも浮かんでいた。
さらにそこへ、唐突にリンボが現れる。ペペロンチーノによって最後の式神になっているという分身だ。
「ンン!そう!あれこそは神の玉体!これよりは我らが異星の神が降臨なされる!!」
喧しいリンボを呆れたように見て、キリシュタリアは口を開いた。
「……いや。よく見るがいいリンボ。私の空想樹の中には、何が捧げられているかを」
「ンンン?何を…ッ!?あれは!?もう中に神が入っているだと!?不法占拠にも程がある!!この神はいったい何者かッ!!」
「何度も言ってただろリンボ、こいつはもうマゼランなんて名前じゃねえ。アトラスの空想樹だってな」
「まさか、先に空想樹の中に、神霊を召喚していたというのか!?」
なんと、空想樹の中にはすでに、プロメテウスの兄であるアトラスが召喚されているのだという。事前にキリシュタリアが召喚していたサーヴァントであり、新しい神代を降臨させるために協力してもらっているとのことだ。
空想樹を囲む輪は真っ赤に染まり、辺りは赤い光に照らされる。
「おのれキリシュタリア・ヴォーダイム!明確な契約違反ではありませんか!!」
「いや。異星の神の指示はすべて従っていたとも。私は人の未来、可能性を信じてここまでやってきた。元から、異星の神を排斥するために私は行動していた」
「貴様…ッ!」
リンボはキリシュタリアを殺害して計画を遂行しようとしたが、カイニスに防がれる。
「おっと、お前の相手は俺だ」
「小癪な!」
2騎は激しく争いながらその場を離れる。
残されたのは、混乱するカルデアと、いまだに泰然とするキリシュタリア。
それでも、立香は問いかけた。
「あなたの目的はなんなんだ」
「もちろん。人理の新生だ。人間は正解を選べない生き物だ。当然、私も含めて。私たちはあまりに弱く、間違える。個人の話ではない、全体の話だ。他者を愛し、認め、尊ぶことができるのはそういう環境に育った者だけだ。基本的に人類は他者を犠牲にすることで成立する。だが、だからといって諦めることはできない。私の目的は単純だ。唯斗、君はアトランティスで気づいたのではないかな?」
キリシュタリアは唯斗に話を振った。立香たちの視線も向かい、まだ残っている一時召喚の英霊たちもこちらを見遣る。
言っていいものかと思ったが、キリシュタリアは唯斗に言わせたいのだろう。
「……第三魔法。魂の物質化の原理を用いた、全人類の神性化」
「そう。今の人間では無理だというのなら、これを変革する。誰もが神に等しい存在になることで、すべての不平等は解消される」
「む、無茶苦茶だわ!」
それに対して、意外にも真っ先に声を上げたのはエレシュキガルだった。いや、むしろ当然かもしれない。
「神も争うもの、それは知性体の定めです!争いの次元が上がるだけで、本質は変わらない。何より、魂だけになった人はもはやヒトではないのだわ!」
「…冥界の女主人、女神エレシュキガル。あなたの言葉なら含蓄がある。しかし、メソポタミアの神のような『人間的な』話ではないのですよ。完全性の問題です。既存の汎人類史が作り上げた神代、神話とも違う、新しい神代」
「…ミスター・雨宮、もう少し詳しく聞いても?」
唯斗はホームズに、アトランティスでのキリシュタリアとの戦いで理解したことをかいつまんで聞かせた。
キリシュタリアは正解を選べるようにするためにこの手段をとった。しかし、「正解」とはそもそも既存の常識に基づく価値尺度の域を出ない。ならばキリシュタリアの言う「正解」とは、既存の価値観を超越した、より高次元のスケールでの尺度に基づくものだと考えた。
それが魂の物質化による、人類を神とする計画。エレシュキガルの言うような争いはそもそも起こらない。ここでの神とは既存の神話の神性ではなく、肉体から解き放たれた高次元エネルギー体としての魂の話なのだ。
「キリシュタリアの言う神は、魔術的なものだ。物事を捉えるスケールそのものが変わる、高魔力体であるところの魂そのもの。第三魔法の目指すものであり、第一種永久機関でもある。天草が目指していたものとかなり近い。あいつも大聖杯によって第三魔法を実現し、魂のグレードを上げることで、争いのない平和な世界を目指していた。人類救済、その天草の目的と、人の進化というキリシュタリアの目的は、極めて近い」
「俺には一緒に思えるけど…」
「最終目的が、キリシュタリアの方は天草より一歩先にあるんだ。天草は争いや差別、苦しみがなくなることを目的にしていた。キリシュタリアの場合はさらに、人という知性体が完璧な『正解』に辿り着くために価値尺度と生命スケールを進化させることが、最終的な目的になってる」
「正解に辿り着くため…」
唯斗の話を無言で肯定していたキリシュタリアは、なおも高貴な態度で宣告する。
「人類はこの日を以て、神という概念を撃ち落とす」
少し考えてから、立香はキリシュタリアを見つめた。敵意や怒りなどはなく、ただ、知ろうという意志がある。