星間都市山脈オリュンポスIII−19
「…でもそれは、現在や過去を全部無視してる」
「……そこを突かれると痛いな。要は、そういったものを持つ君たちにすべてを丸投げし、未来のいつか、正解に辿り着いて欲しいということだからね。残念ながら、すでに死に絶えた人々にはこの魂の物質化は及ばない。今生きている生命体だけだ。つまり、カルデアの君たちということだよ」
「…待て、キリシュタリアは」
唯斗はそこでふと重要なことに気づいたが、キリシュタリアは唇に人差し指を当てる。唯斗はつい従って黙ってしまった。
そう、この計画では、新しい世界を作り上げるキリシュタリア自身が含まれない可能性がある。術者が術を完成させる必要があるわけで、完成してからはそれより過去の魂に遡及しないからだ。
キリシュタリアはそれを今は明らかにする意志がないようで、代わりに問いかける。
「唯斗、君はどう思う?賛同するかな?人類史の醜い部分も、君はよく知っていることだろう」
「人類史が間違いだらけだった、ってのは、まぁ正直同意する。でもな」
かつてギルガメッシュとの会話で答えを導き、ロシア異聞帯ではっきり自覚した、その想い。唯斗が、どんなに苦しくても戦い続ける理由。
「正しいから続くんでも、間違ってるから滅びるんでもない。あとからそうだったと結論づけることはあっても、滅びることに、死ぬことに、理由なんてあっちゃいけない。異聞帯が間違ってるから汎人類史を優先した、なんてつもりもない。そこにいた人々の死に理由があることになるから」
パツシィの、ゲルダの、始皇帝の、アーシャのことが浮かぶ。誰にも死んでいい理由なんてなかった。彼らが藻掻いた世界は、間違っていたから滅びたわけではなかった。
「間違っていたからブリテンやメソポタミアが滅びたわけじゃないように…正しいかどうかと、どんな結末であるべきかは、最初から結論づけられるべきことじゃない。アーサーが言っていた通り、過程と結果はイコールじゃないんだ。俺は、誰もが正解を求めて足掻く過程が、正しいかどうか分からなくても自分の明日を選ぶことができる日々が大事なんだと思う。その積み重ねが、きっと、歴史ってやつなんだ」
「マスター……」
アーサーは唯斗を見つめて微笑む。
すでにアトラスは新しい神代秩序の構築フェーズに入っている。皮肉にも、自分の魔術回路がどんどん高度化していることを感じ取っていた。
キリシュタリアは一瞬微笑んでから、その杖を掲げる。
「分かった。それでは…君たちには私以上の未来を選び取れるのか、その結末を以て、この惑星の未来を決定しよう」
そして、キリシュタリアは早速、魔術回路をフルで開いた。
「
星の形。
宙の形。
神の形。
我の形」
「来るぞ…!」
唯斗はガウェインとアーサーをキリシュタリアのところへ向かわせる。なんとか物理的に詠唱を止められれば万々歳だが、二人の聖剣は結界によって弾かれた。
改めて見ても、サーヴァントの、それもアーサーとガウェインの攻撃をものともしない結界など簡単に、しかも詠唱なしで展開できるとは、化け物だ。
エレシュキガルは檻籠を揺らしてガルラ霊による攻撃を図り、立香は唯斗に召喚を預けてマシュの宝具展開をサポートする。キリシュタリアの惑星轟を防げるとしたらマシュだけだ。
唯斗は続けてアルジュナ・オルタとディルムッドを呼び出す。
「とにかく惑星轟の展開を止める!」
「はっ!」
「了解しました」
ディルムッドは紅の槍を構えてキリシュタリアへと突き進み、アルジュナ・オルタは光弾を次々と放つ。
アーサー、ガウェイン、ディルムッド、アルジュナ・オルタというとてつもなく高位の英霊たちの攻撃を一身に受けながらも、キリシュタリアは詠唱を続ける。