星間都市山脈オリュンポスIII−20
「
天体は空洞なり。
空洞は虚空なり」
「…間に合わない、立香!」
「いける!」
これはもう惑星轟の発動を防ぐことはできない。マシュはかろうじて、唯斗、立香、ホームズ、双子、エウロペを守れる位置にて宝具を展開し、歪な正門が出現して防壁に包まれる。
直後、宇宙と直列したキリシュタリアの魔術回路は術式を行使する。
「
虚空には神ありき」
詠唱の完了と同時に、空から大量の隕石が降り注いだ。円柱の回廊が破砕され、大理石の地面がひび割れ、衝撃波と振動で立っていられないほど体が揺さぶられる。
同時に、一時召喚の英霊たちとのパスが次々と切断された。
マシュの宝具が消えると、惑星轟も止まる。粉塵漂う広場は、吹き抜ける風ですぐに視界こそ晴れたが、そこに立っていた英霊はアーサーだけだった。
ガウェイン、ディルムッド、アルジュナ・オルタ、そしてエレシュキガルは、全員消失している。
すでに、唯斗が呼び出せるサーヴァントはエミヤとアキレウス、ギルガメッシュの3騎にまで減っていた。
「っ、アキレウス!」
「三蔵ちゃん!」
隙を作ってはいけないと判断したのは唯斗も立香も同じで、唯斗はアキレウスを、立香は三蔵を呼び出した。その間にアーサーをいったん下がらせる。
負傷の程度を見るためだが、まだそこまで致命傷には至っていない。
一方、神性を持つ者にしか傷つけられないアキレウスは、惑星轟さえなければキリシュタリアの攻撃にはダメージを喰らわない。
槍を残像すら残らない速さでキリシュタリアに繰り出し、避ける暇を与えないように三蔵も詠唱してキリシュタリアの動きを制限する。
キリシュタリアは早すぎるアキレウスに集中しており、三蔵からの攻撃はすべて一律に結界で防いでいるようだったが、それが隙だった。
唯斗は、キリシュタリアの足下に左手の術式を展開する。
「ヴィアン」
「っ!!」
その瞬間、キリシュタリアの足下の床が唯斗の近くに転移してバラバラと転がり、穴が開いたためにキリシュタリアはバランスを崩す。
その隙を見逃さず、アキレウスの槍が横に薙ぎ振るわれてキリシュタリアは飛ばされ、さらに三蔵がその手の平を鳩尾に思い切り押し当てた。
キリシュタリアは呻いて地面に叩き付けられ、起き上がろうとしたところ、再び三蔵の突きで吹っ飛ばされた。
「ぐ…ッ!」
「人類は正解を選べないから魂だけにする?それは違うわ!人は誰しも仏になれる心を秘めている。誰の心にもある仏界を勝手に他人が諦めるなんて、西洋の神が許しても御仏が許しません!」
物理的な説法によって、キリシュタリアは起き上がることもままならない。しかしそれでも、不敵な笑みを浮かべてこちらを見上げた。
「ふ…っ、これは、負けた、と言っていいだろうね…私はもう、すぐに惑星轟を展開する余力はなく、神速のアキレウスと、倒す力ではなく導く力であるがために警戒術式が作動しない三蔵法師が相手では…さすが、多数のサーヴァントを引き連れる組織だ」
唯斗の場合、選択肢が少なかったという背景もあるが、立香の咄嗟の判断は唯斗も舌を巻く。キリシュタリアの分析通り、三蔵をここで出したのは非常に有効だ。三蔵が持っているのは敵意でも殺意でもなく、大衆を導く大乗仏教の教えだからである。
自然、警戒対象になることがなく、多くの防衛術式を貫通してしまうのだ。
7つの特異点、4つの亜種特異点、そして4つの異聞帯とあの絶海を攻略してきた歴戦のマスターとしての実力で勝った、とはっきり言えるだろう。
とはいえ、キリシュタリアだけでなく立香もまた、魔力の消費によって立っているのがやっと、という体裁だ。三蔵は見かねて自ら退去し、アキレウスも唯斗に令呪が残っていないのを見て同じく退去して魔力消費を抑えてくれる。
ただ、キリシュタリアを殺さない限り新秩序の構築を止めることはできない。このあとの手段をどうするか、というところに、突然、それが起こった。
突如として空想樹は真っ赤に染まり、辺りは再び赤い光に包まれる。先ほどのものよりも、もっとある種、禍々しい赤だ。
見上げると、空想樹の枝に炎が燃え移っているのが見えた。