星間都市山脈オリュンポスIII−22
「いやー、スカッとした。な、お前さんたちもそう思うだろ?目の上の瘤がなくなってよ」
「お前は…!」
立香は戸惑いながらも、ベリルに警戒と敵意を向ける。キリシュタリアは倒すべき敵であったが、悪ではなかった。だからこそ、だまし討ちをしたベリルからあふれ出る悪意に、明確な敵だと判断した。
「…おいおい、その瀕死の状態でそんな好戦的な目されたら、思わず勢いで殺したくなっちまうだろ?いくら後輩思いの伊達男でもな!な、そうだろマシュ。俺は陽気で話せば分かるタイプだったよな?」
「……いえ。統計データで言動を分析すればそうかもしれませんが…それでも、カルデアでのあなたの言動は…私には、理解できないものでした」
「………へぇ」
一気に低くなったベリルの声に、立香はマシュを庇うように前に立つ。それを見て、ベリルはさらに笑みを深めた。
「いいねぇ、そうやって前に出てくるのは大歓迎だ。なにせ…殺しやすくなるからな」
「動くな」
しかし、ベリルが動く前に、その首元には一瞬でエクスカリバーの切っ先が当てられていた。瞬きの合間に、アーサーがベリルの背後を取っていたのだ。その翡翠の目は据わっている。
「…おいおい、俺も一応、英国の民だぜ?憧れの騎士王に敵意を向けられるのは悲しいなァ」
「貴様は私の守るべき民ではない。この世界のアーサー王もそう言うだろう」
アーサーがここまで嫌悪感を露わにするのも珍しい。一方で、アーサーにここまで殺意を向けられていながらまったく動じないベリルもまた、異常だった。
カルデアにいたときから異質な男だったが、あれでもまだ、本性を隠していた方だったのだろう。
「おい、どうなってやがる!?」
そこに勢いよく着地したのはカイニスだった。リンボをどうにかしてきたようだが、血だまりに倒れるキリシュタリアに、狼狽している様子だ。
その傷口を見て、一目で誰がやったか理解したらしい。
「…テメェ、やりやがったなベリル」
怒りで紅に染まった目でベリルを睨み付けるカイニスに対しても、ベリルはどこ吹く風だ。ペペロンチーノとは違う意味で、命への執着がない。ベリルの中では、すでに魂は平等なのだろう。ひとえに、誰もが無価値、という意味で。
そんな一色触発の場に割って入ってきたのは、また別の人物だった。
「そこまでだ。空想樹を巡る戦いはカルデアの勝利で終わった。これ以上、味方同士で戦うのはやめたまえ、ベリル、カイニス」
気配もなく現れたのはラスプーチン。悠然とブーツの踵の音を響かせながら広場に入ってくると、場を諫める。
汎人類史、異星の神、すべてに叛意を示したベリルは、どうやらブリテン異聞帯の王の配下として振る舞うことにしたようで、分が悪くなったと見てとっととその場を後にした。
またもコヤンスカヤによって転移し、その単独顕現の力によってベリルはコヤンスカヤとともに忽然と姿を消す。ブリテンに帰ったのだろう。
「では出番だ、千子村正」
そして、ラスプーチンは星空に向けてそう呼びかける。応える声はなかったが、代わりに、眩い一閃の光がアトラスを切り裂いた。
その中から猛烈な魔力が溢れだし、赤黒い光がオリュンポスを照らし出す。
唯斗のところに戻ってきたアーサーは、空想樹を見上げて表情を険しくした。
「…ああ、なるほど。異星の神…その霊基で降臨するか」
「なっ、今から降臨するのか!?アトラスの霊基と空想樹の霊子で…別の霊基を…?」
「あぁ。地表で体を持つことが出来ない異星の神が選んだ器。人類悪、ビーストVII」
「は……、」
莫大な魔力量、禍々しい気配、それはなんと、ビースト霊基によるものだという。ナンバリングはVII、最後のナンバーだ。
魔力は収束していき、超高密度な霊基を構築する。コヤンスカヤが足早にベリルと去って行ったのは、ビースト同士が鉢合わないようにするためだろう。
その眩い光の中に、ついに人影が姿を現す。そして、その人物に、今度こそ、カルデア側は言葉を失った。