星間都市山脈オリュンポスIII−23
「よくやった使徒たちよ!よくぞ、虚空の星にありし我が器、用意した!」
よく通る高飛車な声、長いプラチナブロンドの髪。
「それにしてもここが地球か。同胞が苦しめられたというわりには…なあんだ、ちっぽけな星ね!こんなの、征服に1年とかからないわ!」
橙色の瞳、きりりと上がる眉尻、意志の強そうな表情。
あれは間違いなく、カルデアの前所長、オルガマリー・アニムスフィアだ。もちろん本人ではない様子だが、少なくとも外見上は彼女そのものだった。
いったい何が起こっているのか分からなかったが、なんであれ、異星の神がビースト霊基で降臨したという事実に変わりなく、この状況で交戦できるような相手ではないであろうことも確かだ。
ラスプーチンは特に動揺した様子もなく、異星の神に対して現状を報告する。
その話では、空想樹マゼランの炎上は、ブリテンの空想樹セイファートの炎上が枝を伝って延焼したものだという。それによって、異星の神の霊基そのものは問題なくとも、出力できる権能の範囲が低下しているとのことだ。
ただそれも、弱体化と言えるようなものではないだろう。
「…まあいい。それなら、この異聞帯をまずは吸収しておくとするか。ああ、矮小な地球人。最後に一つ教えてやろう」
そこで初めて、神はこちらを向いた。気づいてはいたが気にする必要のない存在だったのだろうし、これも気まぐれなのだろうが、異星の神は名乗りを上げた。
「我が名は地球大元帥U-オルガマリー!!この私を上回る人理など存在しない、ここで惨めにその命を終えるといい!!」
「…?……??」
いったいこいつは何を言っているんだ。
正直そんな感想が全員の中にあったが、直後、空想樹の上空に出現したブラックホールによって、異聞帯は本当に、崩壊しながら吸い込まれ始めた。巨大な重力波はあの異星の神そのものだという。
漂っていたゼウスの破片や崩落した神殿の瓦礫、砕けた無限結晶山脈の水晶が粉々になりながらブラックホールへと吸い込まれ、今立っている離宮もぐらぐらと振動する。
逃げるしかないが、あの重力から逃れる術もまたない。遅かれ早かれ、大西洋を異聞帯ごと切り取ったあと、地球全域を言葉通り統治するのだろう。
ホームズも戦力差が絶望的であることを認めたのか、顔を歪ませて首を横に振った。
「…ミスター・藤丸、雨宮。すまない、これは、もう……」
「おや、諦めるのは早計ではないかな、名探偵」
そこに声をかけたのは、カイニスに支えられたキリシュタリアだった。
腹を貫かれ大量の血を流し、ふらふらとカイニスに支えられながらも、それでもなお、毅然としていた。
「敗北の前提条件は、私と君たちとで違うだろう。私の条件は異星の神降臨の前に第三魔法を成立させることだが、これは完全敗北だ。しかし君たちの敗北条件は死ぬことであり、勝利条件は『生き延びること』だろう。今は逃げるしかないとしても、あれを倒す必要はない。それは…私が引き受けよう」
「キリシュタリアさん…!」
「おや、距離が近くなったね立香。喜ばしいことだ」
ふっと微笑んでから、キリシュタリアは異星の神を見上げる。どんなに血で汚れていても、その横顔が褪せた様子はない。
「たとえ空想樹を失い消失する定めだとしても、私はオリュンポスを守りきる。それが、大神ゼウスとの約束だったからね」
そう言って、キリシュタリアは立香、そして唯斗を順に見る。
「…すまない、立香、唯斗。君たちに、また大役を押しつけてしまって」
「…大丈夫、まだまだ負けないから」
「お前が背負いすぎなんだよ、キリシュタリア」
二人の言葉にキリシュタリアは微笑んでから、カイニスとともに空想樹へと向かう。
一際大きく離宮が揺れて、亀裂が走った。
キリシュタリアとカイニスがいる場所とカルデアがいる場所の間に、埋めようのない断絶を示すかのように、大きな裂け目が生じて、それより片側は大きく傾いた。
歩きづらい傾斜をアーサーとともに走りながら、振り返りたいのを我慢して、唯斗は拳を握りしめる。
きっと、キリシュタリア、オフェリア、カドック、ペペロンチーノが一緒にグランドオーダーにいたのなら。唯斗はもっと早く人間性を得ていただろうし、この旅はもう少し、違う結末を迎えていたのかもしれない。
そんなことはどうしようもない空想だと理解していたが、それでも、そう思わずにはいられなかった。